偽善者なしの赫炎の塔 その14
昭和の日記念 連続更新二話目です
今話の主要人物
アリィ :最強殺し、擬似二重人格者、少し抜けている
アリス :もう一人のアリィ、冷静沈着、理想のアリィ
アイリス:転生者、異世界人、創作物オタク
玄武の間
「なんだか不思議な場所だね」
草木の生えない真っ新な山々に、水だけが流れる世界。
アリィはそんな場所でただ一人、この世界の主を探していた。
「そう思わない、アリス?」
いや、一人ではあるが独りではない。
彼女が訊ねると、意識もせずに勝手に口が動きだす。
「アリィの言う通りね。情報通りなら、玄武は水の神。あとは後世の誤った情報が伝わって、土の担当でもあるはず。だから木は担当できなくて、こうなったのだと思うわ」
「さすがアリス。アリィの分からないことまで分かっているんだ」
「アリィの知らないことはアリスも知らないわよ。ただ、アリスの方が思慮深いだけよ」
「むぅ……アリィの方がバカって言われている気がするんだけど」
一人二役、異なる精神が一つの体に宿り交互に口を動かす。
だが、まったく異なる魂というわけではない──二人は一人なのだ。
「アリィがバカならアリスもバカよ。それより、そろそろ出てきたらどう?」
『──気づいておったか』
『あらあら、元気な子ね』
現れたのは真っ黒な亀だった。
しかし、臀部から伸びるのははただの尻尾ではなく──知性的な瞳を持つ蛇である。
「初めまして。アリィの名前はアリィで」
「アリスの名はアリスよ」
『そうかそうか。儂は玄武』
『そして私は玄冥よ』
アリィたちは同じ口を、玄武たちは異なる口を動かし同じ肉体から声を発した。
どうやら、似た者同士の二組なようだ。
「さっそくだけど、たぶん持っていると思う鍵が欲しいんだけど」
「何か条件があるなら満たすわよ。こっちもそれなりに強いからね」
『あらあら、本当に元気な子。いいわ、さっそく試練を用意してあげるわ』
『儂らの試練は選べるぞ。儂と妻、どちらかの課題を満たすだけで合格じゃ』
彼らは一対の存在。
故にどちらかが求める条件を満たせば、自動的に合格ということになっていた。
『儂の試練は武神の試練──つまり、儂らと闘い満足させることじゃ』
『私の試練は……そうねぇ、闘い以外のことで私たちを満足させることね』
「いろいろと気になるんだけど、つまり勝てばいいってことだよね?」
「そうみたいね。おまけに言えば、アリスたちには好都合な試練みたいね」
二人はそう言って、玄武たちに向き合う。
いつの間にか手には札が握られ、玄武たちはそこに秘められた魔力に警戒する。
『ふむ、ではどちらを選ぶのじゃ? 儂の試練──武神の試練か』
『私の試練──楽しませてくれるのか』
『のぅ、何か名前を付けんかのぅ?』
『と、言われましても……なかなかピッタリなものが見つからないんですよ』
玄武たちの穏やかな会話は続いた。
しかし、アリィたちは選択する──その辺かに彼らの会話は中断される。
「アリィたちは闘う」
「アリスたちは楽しませる」
「「ねぇ、いっしょに遊ばない?」」
辺りに散らばった無数の伏せ札。
それが、彼女たちの答えだった。
◆ □ ◆ □ ◆
朱雀の間
真っ赤に染まった朱色の世界。
至る所に炎が燈っており、空気までもが高音を帯びているため、吸い込んだ空気が侵入者を内部から痛めつける。
「はい──クーラードリンク~(濁声)」
取りだした飲料水を口に含むと、爽やかな味が体を駆け巡り──肉体が感じていた熱への辛さはすべて解消された。
「いやー、やっぱり熱い場所にはこれに限るよ。ねぇねぇ、そう思わない朱雀ん?」
『朱雀ん、とはいったい何のこと?』
甘く詩人のように滑らかな声が、アイリスにそう尋ねる。
炎が渦のように螺旋を描くと、中から朱色と五色で彩られてたライチョウのような鳥が出現した。
「愛称だよ、愛称。そんなことより朱雀ん、ここを出るにはどうすればいい?」
『鍵が欲しいのであれば試練を乗り越えるか私を倒す。そうでないなら、そこの扉か出ていくといい』
「鍵は欲しいからなー。よし、じゃあ試練を受ける方にしておくよ」
アイリスがそう言うと、朱雀はコクリと頷き周囲に炎の檻を生みだす。
『そうか。では、試練を始めよう』
「なんだかわくわくするよ。それで朱雀ん、どんな試練なの?」
『…………さて、どうするか』
「決めてなかったの?」
朱雀は試練を定めていなかった。
それは一体の四獣を除いてすべてに当て嵌まることだったのだが、朱雀に関してはどういったことをしたいのか、それすらも定めないでいたのだ。
「なら、ワタシが提案するからそれでよかったらそれを試練にしてみない?」
『むぅ、今のままでは試練をせずに鍵を渡そうとも考えていたのだが……そうしたいのであれば、そうしようではないか』
「えー、それならそれでよかったんだけど。まあ、いいや。なら、こんなのはどう?」
そう言って、アイリスはいくつか試練の内容候補を提示していく。
初めは首を横に振ることが多かった朱雀であったが、少しずつ納得しかけることが多くなっていき……最終的に首を縦に振った。
『それで了承しよう。だが、本当にそれでいいのか?』
「ふふん、できるからこそやるんだよ。たとえ少しぐらい難しくても、だからこその試練と思えることが大切なんだ」
『そういうものなのか……いや、そうだな。その覚悟、試させてもらおう』
「さぁ、かかってこいやー!」
そして、朱雀の間でも試練が始まる。
次回更新は12:00となります





