偽善者なしの赫炎の塔 その08
「こ、これは……」
「「ごめんなさい」」
三層へと続く階段の傍、彼女たちは約束の時刻に集まって探索結果を行っていた。
そして、最後に発表をしたリッカとフーの組は……シュンとしょげながら、手に入れたアイテムを提出している。
「うーん。修復はできますけど……少々時間がかかりますね。一日はかかるかと」
「そ、そんなに速いのか?」
「本当に速い人は、ものの数秒で解析まで含めて修復できるんですよ。それに比べたら、私なんてまだまだです」
「……それは違うと思う」
比較対象に挙げているのは、あらゆる生産職の頂点に立つ【生産神】に就いた経験を持つ者である。
調べることに補正が入る(学究者)という職業に就き、錬金術スキルを自力で習得したリュシルだが……それでも頂には程遠い。
「もう一日、どこかで休憩しましょう。頂はまだまだ遠いですし、しっかりと休んでおくことも大切かと」
「そうですね。万全の体調で挑んだ方がよいかと……アレが作動してしまいますし」
「そうだったわね。リュナとシュカも、それでいいわね?」
二人は休むことに異論は無かった。
扉ごとに行われる戦闘の数々、少しずつ疲労が蓄積していたからだ。
一方、リュシルたちはそこまで疲労をしていない。
疲労するほどの戦闘をしていないのもそうだが、そもそもの基礎能力がまったく異なるからだ。
彼女たちはいったん、幻獣人たちが生活を行う扉を潜る。
そこはとてものどかな草原地帯、食べられる魔物や安全な水が存在しているため、餓死することは無い安全地帯だ。
リュナが仲介役となり離れた場所で拠点を立てる許可を貰い、リュシルが鍵を修復するまでの時間を過ごすことにした。
「……これ、簡易的な施設なんだろうか」
「紅蓮都市に居ると、慣れるよ?」
「そ、そうなのか……」
いくつかの噂を聞き、本当にそんな場所があるのかと疑っていたシュカだが……目の前にある物を見て、噂の真実味が増す。
そこには一戸建ての家が在った。
二階建てのその住宅は、彼女たち六人が過ごしても充分に余りうる広さを誇る。
呆然と立ち尽くすシュカだが、やがてリュナに促されて中へ入っていく。
「……やはり、おかしいだろう」
「慣れて」
「ど、努力してみよう」
入ってすぐの玄関に、靴を脱ぐようにと書かれた札が立てられていたため、二人は履物入れに靴を入れて中へ上がる。
玄関マットは魔道具であり、“清浄”を体へ施すため、彼女たちの体は中に汚れを持ち込まず入ることができた。
「「!」」
部屋に入るとすぐに、それに気づく。
それは──香ばしい料理の匂い、シュカにとっては迷宮の中で決して食べることはないと思っていたものだ。
「あら、お帰りなさい。そろそろ完成するから、そっちで待ってなさい」
「わ、分かった」
「分かりました」
「リュナはどうか分からないけど、間違いなくシュカは初めての料理だと思うわ。何か食べられないモノはある?」
「いや、そういったものはない」
獣人は個人の好き嫌いはあれど、種族的に絶対に食べられないものは存在しない。
犬種の獣人が、玉ねぎを食べられないということもないのだ。
「なら、メニューの変更は必要ないわね。そろそろ完成するわ、二人とも涎は拭っておきなさいよ」
「「!」」
慌てて自身の服で拭う……直前に、リッカが作ってくれた水の球で顔を拭く。
役目を終えた水は消失し、彼女たちの顔に温かな風が吹き渡る。
「──できたわよ。直伝の錬金調理ね」
並べられた品を、一つとしてシュカは見たことがなかった。
だがそのすべてが、獣人族の鋭角な嗅覚を揺さぶり再び涎を生みだそうとする。
「ほら、しっかりと拭きなさい」
「す、すまない……」
「構わないわよ。メイドっていうのは、こういうときに役立つものなんだから」
メイド、の意味は分からなかったシュカであったが……リッカの手は温かく、少しこそばゆい気持ちになった。
それから食事を終え、風呂に入り、ベッドに潜って就寝する。
その一つ一つに、シュカは感動していた。
料理はこれまで食べたことがないほどに絶品で、風呂は王族かというほどに広く設備が整っており、ベッドはとてもふかふかで知らない場所だというのにすぐに寝れたからだ。
「おはようございます、シュカさん」
「おはよう、リュシル。……他の者は?」
「リュナはまだ寝ていますよ。あとの三人はもう帰りました」
「帰った!?」
この場所に似つかわしい言葉に、驚愕するシュカ。
たしかに迷宮はすぐに出ることができる、しかし塔の上に向かうはずのメンバーがいきなり半分になったことに驚いていた。
「大丈夫ですよ。昨日も話した通り、私たちは交代で攻略をするのです。私以外の三人、それが一日ごとに替わっていきます……連携に問題があると思いますので、昨日のような攻略をする場合、シュカさんは私とですね」
「そ、それは嬉しいが……リュナの方は大丈夫なんだろうか?」
「はい。紅蓮都市には、ウィーさんとの関係上何度も訪れていますので。リュナさんは、そこで私たちの戦闘訓練に参加しています。詳細は彼女自身に確認してくださいね」
「それはもちろんだ。野暮な真似はしない」
友にそういった詮索は不要。
箱入り娘の知識では、そういった風になっていた。
出番を終えたら即チェンジ!
ただでさえ質が異常な少女たちは、数の力をも利用して塔を登り詰める!
リュシルと獣人娘たちだけです、この後も残り続けるのは
p.s.
修正話──更新しました
ついに明かされるそのスキルの名は!?
そして、彼女はなんと彼を呼ぶ?
詳細は02-40にて!





