偽善者なしの赫炎の塔 その06
この話の主要人物
リュシル:魔人族、学者、魔法+錬金術で闘う
シュカラナ:獣人族、○兎種、大弓を使う
レミル:天使族、御使い、両手盾使い(※ドヤ顔はしていません)
リュナ:獣人族、紅獅子族、炎の爪を振るう
二階層ではすでに、戦いが始まっていた。
しかし、それは互いに力をぶつけ合うものではなく──少女たちによる、一方的な蹂躙である。
「“螺旋矢”」
「“飛矢駆”」
扉の入り口からシュカの放った矢は、魔物に向けて一直線に飛んでいく。
本来であれば、届かない距離に居た魔物。
しかし、リュシルの唱えた魔法の効果を受け、矢は本来の射程距離以上に飛び──心臓に命中する。
「お見事です、シュカさん」
「そう言ってもらえるとありがたい。だが今のは、リュシルさんのサポートがあったからこそできた芸当だ」
「リュシルで構いませんよ。先ほどの魔法は飛距離を伸ばすだけで、進路に補正は入りません。シュカさんはそれを独力で、それも一回でやったんですよ。森人のように見事な射撃能力です」
「そ、そう……なのだろうか?」
リュシルはもともと学者だったが、頼れる者が居なかったため、単独で調査のために外へ出る経験を持つ。
それでもどうしようもない場合──特殊な迷宮などに入る場合は、冒険者などを雇って人数調整を行うことがあった。
それ故に、彼女はさまざまな人種の者たちと接した経験を持っている。
シュカの弓の実力を、森人と比較できたのもそのためだ。
「ところで、シュカさんはどうして弓をお使いになられているので? 私の知る限り、あまりメインとして弓を使う方が多くなかったもので……」
「ああ……私は箱入り娘、というヤツだったからな。普通の獣人がするような闘い方をさせてはもらえなかった。妥協されて、それで弓。もっとも、今では愛着を覚えている」
「そうでしたか。ありがとうございます、不躾な質問に答えていただいて」
「今はパーティーだ。メンバーのことを知ろうとするのは当然だろう」
本で読んだ知識とリュナがかつて教えた情報で、彼女の『パーティー』という概念は固まっていた。
リュナを探すため、単独で突き進んでいたため誰もそれを修正することなくこれまでを生きてきた。
「ふふっ、そうですね。いっしょに居る相手とは、仲を深めたいものです」
「やはりそうであったか。リュシルさん、少しの間だけですが、よろしくお願いします」
「リュシルで構いませんよ。ここには……ありませんね。それでは、次の扉の捜索に入りましょうか」
「ああ!」
扉の中の捜索を終えると、二人は部屋から出てまた別の扉の中を確認し始める。
二人はそうして、仲を深めていった。
◆ □ ◆ □ ◆
「では、行きましょうか」
「うん、行く」
一方、レミルとリュナの二人組。
彼女たちもまた、扉を開けると中の捜索を行っていた。
すでに幻獣人たちが住む扉を訪れ、長老から情報を確認している。
だからこそ、彼女たちは二人組に分かれて行動していた──ある物を探すために。
「どうですか、反応はありましたか?」
「ちょっと待って……居た。ちょっと右方向に、魔中鬼」
「分かりました」
リュナはシュカと違い、紅蓮都市で習ったためその魔物の正体がすぐに分かった。
魔子鬼よりも濃い緑の皮膚を持ち、体格も良い進化種──魔中鬼。
赤色の世界では決して姿を現すはずのない個体が、彼女たちに襲いかかる。
「ふっ」
『GUYAA!?』
「その程度で、この先を通れると思わないことです!」
巨大な盾が二つ、彼女の白く細長い腕に固定されている。
あらゆる物を拒む壁が、襲いかかる魔中鬼たちの猛攻をいっさい受け入れずにいた。
「リュナさん!」
「んっ!」
動揺する魔中鬼を襲撃するのは、レミルの陰に潜んでいたリュナ。
両手の|第一指間腔以外の指間腔から炎でできた刃を生みだし、周辺の魔物をズタズタに切り裂いていく。
彼女の種族──『紅獅子』は、生まれながらにして炎に対する適性を持つ。
また、精神力を消費することで炎を生みだすことが可能で、それを用いて戦うのが彼らの戦闘スタイルであった。
切り裂かれた肉体のパーツは、一瞬にして燃え上がり炭と化す。
それだけの高温でありながら、彼女の皮膚にはいっさいの火傷跡が存在しない。
「私も負けてはいられませんね」
巧みに盾を動かし、魔中鬼の攻撃を完璧にシャットアウトするレミル。
何もできないまま死ぬのは嫌だと、そう焦燥に駆られる魔中鬼たちは少しずつ冷静さを失っていく。
だからこそ、気づけなかった──空から降り注ぐ武具の雨に。
『GUGYAAA!』
「矢よ、一斉放射!」
『GUYAAAAAAAA!!』
上から落ちる無数の武具と、正面から飛ばされる無数の矢。
それらから逃れることはできない。
すでにそれができる個体は、リュナによって消し炭にされているからだ。
彼らは足掻くように声を出しもがき、苦しむだけで何もできず──そのまま果てた。
残ったのはビー玉サイズの魔核、そして彼らの持っていた武器が少々のみ。
「お疲れ様です、リュナさん」
「大丈夫、です」
「そうですか? ……では、私が少し疲れましたので休息しましょう」
「……はい」
彼女たちは魔道具を使って辺りに散らばるドロップアイテムを片付けると、しばしの休息に入るのだった。
次回はフー+リッカの戦闘シーンです
前書きにフーの情報はほとんど書きません……念のため
p.s.
いろんな作品を読めば読むほど、そういう世界観もあるのか……と思う作者です
二千話に達する前に、運営神との闘いは始まるのか……すでに赤色の世界云々をやっている時点で、無理な気がするな……と思っております
まあ、作者が投稿できなくなるまでこの作品は更新するつもりですので、半端無いほどに長期的な目で見ればいずれは終わると思います──それがイコールで作者の『死』と繋がる可能性が高そうですけどね





