偽善者と遊戯室
この話の主要人物
アリィ:二重人格者(仮)、抜けている、封印されていた
アリス:アリィの第二人格、冷静沈着、肉体を持たない
夢現空間 遊戯室
いわゆるゲームセンターである。
当初はルーレットや花札、カルタやトランプなどの電気を使わないゲームしか用意されていなかったが、俺とアイリスで増やすことで現代のそれらしき場所にしたのだ。
ストロベリーブロンド色の髪を伸ばす少女は、そんな遊戯室でしたり顔を浮かべる。
「──なるほど、アリィはゲームセンターでデートとか言うヤツなんだね。ミシェルが授業しかしてないって言うから、少し心配してたんだよ」
「何をだ?」
「そりゃあもちろん、約束のデートが小難しいお勉強になるかもってことだよ」
「……ああ、あったな」
サルワスでやったデートのことだ。
あのときにアリィとアリスの二人を同時にエスコートしたい……的なことを言った気がするな。
「ちなみにもう、開発できたぞ」
「えっ、できたの?」
「まあ、やってみるか──“具現創造”」
具現魔法で生みだしたアリィの肉体。
魔法で生成したため制限時間はあるが、そのすべてが魔法で構成されているという点が今回必要となる。
「アリィ、アリス。これをやるってことは、精神が一時的に離れることになる……問題があったらすぐに言ってくれ」
「大丈夫だと思うよ」
『アリスも構わないわよ』
一人の口から二つの声。
これまで表に出てこなかった冷静な声が、俺の問いかけに答える。
「分かった。それじゃあ、やるぞ」
アリィの肉体に触れ、魔法を発動する。
「──“魂魄改変”」
禁忌魔法に指定されているこの魔法は、魂と魄の繋がりや星辰体を弄ることができる。
相手を生きる屍にするのも容易く可能なこの魔法を、今回は分け御霊をするために行使していく。
「『ううっ……』」
「少し辛いだろうけど、一度やれば魂魄の方で自動調整するだろう。[スキル共有]で……そうだ、(霊化)を使ってくれ」
「『わ、分かった……』」
すると彼女の体はスッと薄くなり、肉体というしがらみから解放された状態になる。
この状態ならば阻害するモノが無くなるので、より成功率が上がることだろう。
「これで終わりだ──“魂魄憑依”」
「『──ッ!』」
精神を、魂魄を引き裂かれる気持ちは痛いほど分かっているつもりだ。
補正を受けて痛みは緩和していたが、何度も同じことをやっていれば痛みの通算ははるかに超えているはずだし。
「「……はぁ、はぁ、はぁ……」」
「うん、大丈夫みたいだな」
「だ、大丈夫って……」
「な、何がよ……」
「「えっ……?」」
異なる肉体が別々の声をあげる。
そして二人は、お互いを確かめるように触れあっていく。
「アリス……なんだ……」
「アリィ……よね……」
ペタペタと、実感を味わうように。
鏡越しでしか見たことのない、それぞれが知らないもう一人の自分。
触れられなかった幻想に、今ようやく彼女たちは触れる。
「──って、アリスの方がデカい!?」
「精神的に大人だからじゃないか? 魔法の肉体だから、本人の精神性が少し現実に反映されるんだよ」
「オーケー。それって、アリィが子供と言いたいみたいだね……ちょっと殴っていい?」
「いや、嫌なんだけど──って、アリス!?」
アリィが腕をグルグルと回す姿に、後ろへ下がろうとするが……いつの間にか移動していたアリスに動きを止められる。
「アリスに怒りは無いし、むしろ面白そうだけど……アリィがやりたいことなら協力するに決まってるじゃない」
「ああ、コンセプトはそうだったな──」
そもそもアリスとは、アリィが生みだした理想の人格。
必要に応じて具現化した、冷静沈着でクールなもう一人のアリィ。
故に、選択が大きく間違っていない限りはアリィの言うことに従順なのだ。
一度きりのため改変は行われないが、それでも彼女はアリィなしでは生きていられない存在なのだから。
「そういうことだから、メルスは大人しくアリィに殴られてちょうだい」
「えっ、だから嫌だって言ってるだぶぉ!」
「クリティカルヒーット!」
まあ、ダメージは(攻撃無効)があるので来ないが……眷属に殴られるということ自体に精神的ダメージが。
「アリス、アリスもやってよ!」
「そうね……この体を慣らす必要もあるし仕方ないわね」
「いや、俺じゃなくてもいいじゃぶぅう!」
まあ、そんなこんなでゲームセンターでタコ殴りにされるという状況になった。
……サンドバックなんて、探せばすぐに見つかるだろ!
それから機嫌を直したアリィたちと、用意したゲームで遊んでいく。
三人や四人、それ以上のプレイヤーが参加できるようなゲームもあるので、多人数プレイもバッチこいだ。
「ひゃっはー、首位独走だ!」
「くぅっ。アリス、なんか出して!」
「任せなさい──来た、赤コーラ!」
特殊なアイテムを使って競う、カートレース系のゲームをやっていた。
俺の操るドライバーは一位を独走していたのだが、このタイミングでアリスのキャラが放った赤色のコーラ瓶によってスリップ──順位を一気に落としてしまう。
だが、まだ逆転のチャンスはある。
そう思いハンドルを強く握り締め──
「くらえ、緑コーラ!」
「ま、マジかよ!」
動かした途端、アリィのキャラが後ろに向けて放った緑色のコーラ瓶。
さらに動きを止められ、順位は一気に最下位まで落とされた。
「さぁ、行くわよアリス!」
「ええ、アリィ。このままダブルゴールでも飾ろうじゃない!」
「……いや、無理だからな」
レース系のゲームで、そんな仲良しエンドは存在しないのだ。
そんなこんなで、レースは終わった。
「ま、まさか青コーラが飛んでくるなんて」
「だからキノコを持っておきなさいって言ったのよ」
「うぅ、今度こそはと思ったのに……」
一位は俺、二位はアリス、三位はアリィという結果となった──下から数えてな。
そして、ゲームの感想について話していると……アリスの体が輝き始める。
「アリス!?」
「……もう、時間みたいね。そうでしょう、メルス?」
「ああ、俺の“具現創造”だから持ってただけで、やっぱり限界はある。まあ、もう少し鍛えるか別の手段を考えよう」
別に死別というわけでもないし。
アリィとアリスの魂魄を分けたが、今回の経験でスキルが形を成していくだろう。
もともと素質があったのだ、不可能という概念が無い世界ならば可能である。
「メルス、いつかアリィといっしょに過ごせる時間をお願いするわ」
「任せろ。アリスも立派な眷属、なら俺が自重する必要は無い」
「そう、お願いするわ。──アリィ、今日一日楽しかったわ」
「あ、ありすぅ……」
楽しかったからこそ、別れは少し寂しくなるもの。
青色の瞳からボロボロと涙を流して抱き着くアリィを、アリスは宥めるように撫でる。
「またアリィの中に戻るだけよ。逢いたければ声をかけるだけじゃない」
「けど、でも……」
「それに、もう一つ好きなだけ逢える場所があるじゃない。いつかアリィが直接おねだりすればいいのよ」
「そ、それって……!」
チラチラとこっちを見てくるアリィ。
顔が真っ赤だが、そんな恥ずかしく思えるような方法で解決できるのだろうか?
「それじゃあ、メルス。アリィが頼んだら叶えてやってね」
「? ああ、分かった」
「~~~~~~!」
「細かい相談はあとでしましょう。それじゃあ、少しさよならね」
アリスの体は魔力に還元され、粒子となって宙に散布された。
だがその魂魄は繋いだ線を伝い、アリィの中へ戻っていく。
『……早すぎない?』
「だ、だってアリスが……」
そして速攻でアリスを呼びだすアリィ。
どうやらちゃんと成功したようで、再び彼女の口から別の声色が生みだされる。
「メルス、ちゃんとアリスが居られる体を用意してあげてよ!」
『だから、そうじゃなくてもいい方法があるじゃないの』
「じゅ、準備ってものがあるんだよ!」
「……?」
まあ、二人の問題だ。
細かいことは俺ではなく、彼女たち自身で解決するだろう。
……具現化、また頑張らないとな。
『機巧乙女』を使えば解決する問題ですが、あれはあれで欠点があるので使いません
最終手段にはしているみたいですけどね
p.s.
第七回ネット小説大賞──三つ一次選考を通過しました
自称偽善者、虚弱生産者、催眠術師(元停導士)……チャットだけ仲間はずれですね
そんなチャットアプリも含め、山田武作品をよろしくお願いします





