偽善者と超越種
天の箱庭
クラーレたち『月の乙女』のギルドハウスである、空飛ぶ島に帰ってきた。
というか、一度ヴァナキシュ帝国から出るということで親切に転移で送ったのだ。
すでに帝国で新たな力を手に入れた彼女たち、レベル制限も一段階解放されているようで、より楽しみが増えた。
ただ、あそこに長く居ても心配さしか募らないのでお帰り願ったのだ。
「──『超越種』?」
ジュースを飲みながらささやかなもぐもぐタイムを、彼女たちと共にしていると──話題の中にそんな単語が出てきた。
「はい。メルは知っていますか、まだ誰も見たことがないそんなユニークモンスターを」
「うーん……誰も見たことがないなら、そもそもうわさもないはずだよね? 私は知らないけど、いるのかもしれないね」
「なんでも、その一体があのフィールドの奥地──つまりレベル五の場所に居るんだそうです。不確定な情報ですけど」
「ふーん。けど、どうやって確認したの?」
答えはシンプル、強行突破をしたらしい。
瘴気に耐えられるように全力で肉体を保護したうえで、風属性の魔法を使って砲弾のように吹っ飛んで行ったんだとか。
ポーションやら付与魔法でどうにか粘り、アンデッドたちに気づかれないように最奥に何があるかを確かめようとしていると……その超越種とやらに接触したらしい。
「そんな所に居るってことは、アンデッドの超越種なんだよね」
「そのようです。しかし、問題はそこではなくて……名前を名乗ったらしいんです、それも二つ名付きで?」
「生前がそうだった、とかそういうことなんじゃないの?」
例えば、『煌雪英雄』のアマルとかな。
確固たる意志さえあれば、名乗りを行うこともあるだろう。
……ああ、【不死魔王】のネロマンテとかもそれに該当してたか。
「かもしれません。ですが、新しく超越種についての情報が開示されたらしく、その信憑性が高そうなんですよ」
「……あー、そういえば新しいものを知ると表示されるんだっけ?」
「『種族の壁を突破して、特異な力を操る者たち』とテキストには載っていたそうです」
ここで思いだしたが、『超越者』なんて単語が存在したな。
それを言ったリュシル曰く、あらゆる種族の合計レベルの限界値250を突破した者は全員『超越者』なんだとか。
俺はリアが突破した称号を模倣した結果、いつの間にか『超越者』になっていた。
その結果、今の種族である[不明]やその種族スキルで同時に育てている種族のレベルもあっさり通常の限界値を超えている。
けど、特異な力か……俺は個有スキルがあり、リアは不老になっていた。
リュシルも神代魔法の一部を操れている、それらが超越者の証なのか?
「ちなみに、どんな名前だったの?」
「えっと……たしか──」
そして、クラーレの口は紡いだ。
◆ □ ◆ □ ◆
夢現空間 図書室
「──『還魂』のアイドロプラズム……」
「それが超越種とやらの名前らしい」
「メルスさんは、それについて知りたいんですか?」
「ああ、どんな情報でもいい。超越者について教えてくれた、リュシルにこそ訊いておきたかったんだ」
他の解析班とは、リュシルが絶対的に違う点がある──知識を積んできた長さだ。
まあ、生まれたての者が多いからな、凄まじい速度で知識を吸収してはいるが、長年の知恵はもっともリュシルが上だろう。
「わ、私にこそ、ですか?」
「この状況で、もっとも頼れるのはリュシルだからな。この図書室は、もうリュシルが主みたいなものだし」
「そ、そう……ですよね。分かりました、少し調べてみます」
「ああ、頼んだ」
リュシルの持つ伝説職業<禁忌学者>。
その能力の一つとして、読んだ資料をすべて覚えていられるというものが存在した。
そしてその力を使い、この図書室にあるすべての本から情報を抜きだす。
「──具体的な情報はありませんでした。あくまで仮説や伝承、そういった不確定な情報ばかりです」
「なんでもいい、開示してくれ」
「はい。なんでも……」
簡単に言えば、超越種とは神々が特殊な役割を与えた存在たちの総称らしい。
その中には、魂に関する仕事が与えられた死霊の存在もあった。
「それが『還魂』なのか」
「おそらくですが。魂の浄化、瘴気を正常にすることが役割なのかと」
「種族名が謎だから分からないけど、そっちも普通じゃないんだろうな」
「そちらは載っていませんでした、あくまで魂を司っているのだと」
無限のストックを持っているとか、魂を直接滅ぼすとかそういう力か?
魂を還元すると名乗っているぐらいだし、それに近いかもしれない。
「……まあ、分からないものはとりあえず放置で。他に載っていた超越種は?」
「あとは解読できていない資料も多く、不鮮明すぎて言えないものが多いですが……一つだけ、超越種らしい情報がありました」
「へぇ、どういうものなんだ?」
「えっと、その本は星空に関するものだったのですが……時々、不思議なものが映るとのことです」
宇宙、もしくはそこに近い空のどこかにそういう存在が出現すると。
まあ、そんな魔物が出るなんて聞いたことがないし……なるほど、それっぽい。
いずれ行かなきゃならないのか──星空の海へ大航海だな。
※神々云々は運営神のことではありません
超越云々もまた、本編で出てきた情報がすべてではございません
p.s.
ホワイトデーを記念したSSを番外月に投稿してあります
さぁ、同志たちよ立ち上がれ! 受け取るだけがすべてではない、贈る者たちへ愉悦に浸った笑みを浮かべるもまた、勝ち組への第一歩だ!
 





