プロローグ
よろしくお願いします。
プロローグは事前説明回と為っています。
作者的にはシリアス回です。
日本国東京都某所新築マンション302号室
『続いてのニュースは……』
部屋にはニュース番組を映したテレビと散らばった歴史書籍、引っ越し社マークの入った多数の段ボールが積まれていた。
その部屋で引っ越しの作業もそこそこにだらけている10代後半の男、この部屋の主である海神深夜はニュースを聞き流しつつこの部屋に引っ越して来た経緯を思い出していた。
俺、海神深夜は半年ほど前から、心霊現象……では無いが怪現象の様な物に悩まされていた。いや、悩まされていたと言う表現には少し語弊が有るかもしれないが、そこは特に問題では無い。
さて、その怪現象についてだが、明晰夢、予知夢の様な物だ。だが、腑に落ちない点が多数ある。と言うのも、その夢の中では俺が出会った事の無い20代女性の容姿をした『世界の管理者』を名乗る人物が、俺が知らない最新の話題を持って毎日の様に世間話のためにやって来るのだ。
夢と言う物は脳が記憶を整理する事で起こる物であり、夢の内容はその日一日の体験が反映される事が多いらしい。しかし、俺の夢は俺の知らない頭のおかしな厨二病患者が俺の知らないホットな話題を持って毎日現れるのだ。
それが半年。しかしながら、それも今日で終わりだ。
俺は有名史学科大学に行くために地方の実家から上京した為、今までの怪現象が築歴が古い実家に居たせいであったのならば、俺はもうそんな事からはおさらばして大学で歴史書籍を読み漁るのだ。
俺はそんな思考を打ち切って暇つぶしに、点けっ放しにしていたテレビのニュースに耳を傾ける事にした。
『速報です。昨日午後六時頃、八名の大学生がボランティア活動中に行方不明と為っています。彼らは都内の私立大学のボランティア部の部員であり、留学中のドイツ、イタリア、イギリス、フランス、ロシア国籍の学生も含まれるとの事です。現在警視庁が捜査員一千人体制で捜索中で有りますが、依然として手掛かりは見つかっておらず、市民に情報提供を呼び掛けております。それでは、また情報が入り次第お伝えいたします。……続いてのニュースは……』
「他人を助ける活動中に別の人間に迷惑を掛けるなんて……」
ため息を吐きつつニュースにそんな言っていると、俺は急に謎の違和感に襲われた。
「なんだ?これ……」
段々と視界が歪み、意識が朦朧として行く。
どの位経ったのだろうか、意識が戻ったことに気がつき辺りを見回すとそこは半年前から続く夢の世界。そして、そこに居る“自称”世界の管理者。
彼女は目覚めた俺に気が付くと、慌てて俺に近づき、第一声に「本当に申し訳ない!」と言って頭を下げる。
「……なぁ、謝罪の前に状況を説明してくれないか?そうでないと状況が理解できない。」
「それもそうね。説明しましょう。」
彼女は頭を上げ、申し訳無さそうな表情で言う。
しかし、彼女はそんな表情を即座に崩し、いつもの表情に戻る。
「やぁ深夜君、昨日ぶり。さて、私は君には悪い話とそれを多少良くする話の二つの話がある。」
彼女は大ぶりのジェスチャーをしながらそう言った。
「どっちも悪い話関係かよ……」
こういう時は大抵、片方は良い話があるはずだろ。まったく……
そう思いつつ、心の中でため息を吐く。
「そうなのだよ。それで、悪い話なのだが、君は別世界の管理者からの干渉を受けた。」
いつもとは違う、妙に緊張感を持たせた声。
「……」
俺は何も答えなかった。いや、何も答えられなかった。
ただ、一つ思うのは、何言ってんだ?こいつ。」
「君、聞こえているぞ。」
間にか声に出ていたらしい。
「詳しい説明を要求する。」
「もちろんそのつもりだよ。さて、先ずは……」
そうして始まった説明を要約するとこうだ。
1、世界は複数存在しており、彼女は第一号管理者、第一号管理世界(地球)の管理者だそうだ。
2、彼女の因縁のライバルを自称する第二号管理者が自分の管理世界の発展と嫌がらせの為に第一号管理世界への二度の干渉を行った事。そして俺が二度目の干渉の被害者であること。
……人間とやる事が変わらず愚かなことだ。こんな事をする奴に管理されているとは、その第二号管理世界とやらの住人は不幸だな。
3、第二号管理者の行った干渉はキャンセルできない為、謝罪と事情説明に来たらしい。
まぁ、これはやって当然のことだな。と言うか、そうでないと困る。
4、今回、第二号管理者が行った干渉は第一号管理世界の人間に干渉し、精神を第二号管理世界に誕生する新たな人間に記憶を保持したまま上書きするとの事。
以上。
「それは……つまり転生と言うやつか。」
暇つぶしに読んでいたファンタジー小説によくそんなのが有ったな。
「まぁ、その通りだね。それでだ。二つ目の話をしよう。君にはお詫びとして一つ好きな能力をあげようと思うんだ。」
こんなのも小説でよくあったな。
「ほう、何でもいいのか?」
「もちろん!好きなものを言ってごらん。ああそうだ、これから君が行く世界、第二号管理世界は剣と魔法と勇者と魔王のこてこてファンタジー世界だ。転生先はランダムだが悪い所には行かないだろう。地理も地形は第一号管理世界と殆ど変わらないから。だから何でも言いなさい。」
両手を広げて何でも来いと言っている様な様子だが、それは無視して、なんでもいいのか……
補足情報から見て、魔王が居るのだろう。と言う事は身を守れるように攻撃系の能力にした方が良いのだろうか?
「質問したいんだが、俺は転生したら魔法を使えるのか?」
これはかなり重要だ。転生しても「身を守れなくて死んでしまいました」ではシャレにならん。
「使えるよ。魔法は誰でも使えるけど職業に出来る人は少ないんだけどね。これは保有魔力量の関係で使用回数が限定されるのが原因だ。もちろん回復はする。魔力量と回復速度は個人差が有るけどね。」
「俺の魔力量はどうなんだ?」
これの返事次第で転生後の俺の運命を左右する事になる。緊張の一瞬だ。
「向こうの平均的な魔法を扱う者の十万倍はあるね。」
「ぅへぁあ?じゅ、十万倍?」
余りにアホみたいな回答に、つい抜けた返事をしてしまった。
「うん。元々第一号管理世界の人間は皆魔力量が非常に多いからね。そして君は特に多い。だから魔法に関しては心配しなくていいよ。と言うか、その辺の関係で君が選ばれたんだろうけどね。」
そうか、それは良い事を聞いた。……よくないことも聞いたが。
「もう一つ良いか?」
「いくつでも質問してもいいよ。悪いのはこっちだからね。」
「そうか。じゃぁ、その魔力は電力の様なエネルギーとして利用できるのか?」
「電力の様にかどうかは分からないけど、向こうでの主力エネルギー源は魔力だよ。」
成程、これは転生してから研究、検証が必要かもしれないな。
ん?研究?研究や検証をするための材料を入手する為の魔法とか良いかもしれないな。他にも転売(産地直送)とかできそうだし。ダメ元で聞いてみるか。
「能力なんだが、俺の見たことがある物を生成する能力とかできるか?」
「そうだね。魔力と引き換えと言う事であれば可能だよ。レートは……君の魔力量なら全く問題ないね。」
「おお、そうか。ならそれで頼む。」
「了解だよ。それじゃぁ、そろそろお別れかな?君が転生したら私はもう君と会えなくなるから。最後に聞きたい事は有るかい?」
聞きたい事か。
「なら二つ。先ずは、二度も干渉行為を行った第二号管理者はどうなったんだ?」
これはかなり重要な質問だ。
「奴は私たち管理者の上位者の手により更迭されたよ。今、第二号管理世界は新任の第三百九十六号管理者が引き継いだよ。」
「最後の質問だ。」
俺は一拍おいて言う。
「名前を教えてほしい。」
彼女は驚いた顔をする。
「最後にそんな質問をするなんて、夢で会うよりずっと前から見ていた君からそんな言葉が出るとは、いやはや驚きだ。」
今、聞き捨てならないことを聞いた気がするが黙っておこう。
「私が知るに君が名前を聞くのは真の意味で信用した本当に有能な人間だけだからね。私は君のお眼鏡にかなったと言う事かな?」
「ご想像にお任せする。」
「素直じゃないな、君は。それでだ、是非とも答えたい所なのだが、私には名前と呼べるものが無くてね……そうだ!君が私に名前を付けてくれよ。」
急な申し出に俺は驚いたが、コクリと頷き、少し考える。
数分後、思考の結果を彼女に伝える。
「アリス。この名を貴方に贈ろう。」
「アリス、私は今からアリスね。それで、この名にした理由は?」
「ああ。あんたからは何だか現実世界から不思議な世界、世界を管理する者達の世界へと迷い込んでしまった少女の様に見えてね。だから不思議の国へ迷い込んでしまった少女の名を選んだ。」
そう言うと彼女、アリスは再び驚いた顔をする。
「さて、そろそろ行こうと思うのだが?」
「そうね、じゃあ行くわよ。」
すると俺の体が段々発光していく。
「さようなら深夜。」
そう言う彼女に俺は、
「また会おう、アリス。」
そう言った瞬間、深夜の体は完全に光に包まれ、後に残ったのは静かに涙を流すアリスの姿だけだった。
プロローグと言う事で伏線(フラグともいう)をいくつか入れております。
次話からは地図帳を片手に見ていただくと地理関係が分かりやすいかもしれません。