予想外の伏兵
三日目の朝、ジークフリト達は、魔法帆船スキーズブラズニルの客室で朝食を摂っていた。
「随分余裕ですな、ブリュンヒルデ様。今日が紅の戦姫との決勝戦だというのに・・・。」
「ヒルデには、勝算があるのだろ。というか、リンドブルム相手に、遅れを取るとは思えんがね。」
ディートリヒがかけた言葉に、ブリュンヒルデに変わってジークフリートが答えた。
その答えに、異を唱えたのは、ブリュンヒルデ本人だった。
「いや!勝負は始まってみないと分からんものだよ。それに、私はリンドブルムに期待しているのだ。」
ジークフリートと、ディートリヒが顔を見合わせ、不思議そうにしていると、シュベルトライテが補足してきた。
「リンドブルム王女は、私達と同じ戦乙女であった、ヒルデガルドの血をひいているらしいのです。姉上は、その血に彼女の可能性を見ているのでしょう。」
なるほどと、感心するディートリヒを他所に、ジークフリートはブリュンヒルデに釘を刺した。
「だがヒルデ。お前が負けたら、ディートリヒ達は、路頭に迷うことになるんだぞ。忘れてないだろうな。」
「当然だ!ディートリヒ、大船に乗ったつもりでいるがよいぞ!!」
「もちろんです!ブリュンヒルデ様!」
「うむ!主殿の前で、無様は晒せんからな!」
ワハハと笑うブリュンヒルデに、やや呆れながら、ジークフリートは今日女性部門決勝前に行われる男子部門の予選の事を考えていた。
(今日は、あのフェルナンデスとかいう剣士がでるはずだ。観戦しに行っとくか。念のために。)
こうしてジークフリート一行は、闘技場に向け出発した。
そこで、ジークフリートは、大いに驚愕するはめに陥るのだった。
フェルナンデスの予選は、予想通りというか、彼の圧勝であった。
得物はレイピア、魔法と併用する技巧派の闘い方であった。
その速度は、ジークフリートも苦戦を免れないであろうスピードであったが、ジークフリートが驚いたのは、そこではない。
その後の予選、最終予選に出て来た一人の老兵の存在にである。
「なんでここにヴェオウルフの爺さんが出て来るんだ!?おかしいだろ!!」
ヴェオウルフは、ミズガルズの将軍である。
しかも、国家の英雄である彼は、国王の信任も厚く、常に国外へ出ず帝都の防衛に就いているはずであったのだ。
しかし、彼は目の前にいる。
ヤル気満々の完全武装である。
名剣フルンティングを振るい、相手の巨獣、一つ目巨人を両断してのけるという荒技を見せたのだ。
予選の終了時、自分に向けて、凄まじい闘気と共に、鬼のような形相で、視線を向けて来たヴェオウルフに、ジークフリートは遂に来るものが来たかと思った。
(追手が王国の盾、ヴェオウルフとは。どうせ、貴族派の差し金だろうが、やってくれるじゃないか。)
実際は、国交の一環に、信任厚き王国一の戦士を送り込むことで、ミズガルズは、ヴィーグリーズを友好国として見ているということを示そうとした王党派の策であったのだが、ジークフリートの存在に気付いたヴェオウルフの暴走によって、英雄同士が闘い合うという事態になったのだ。
ジークフリートもまた、闘気を膨れ上がらせた。
(爺さん、悪いが負ける訳にはいかねーんだよ!)
女性部門決勝を前に、男性部門の決勝抽選が始まろうとしていた。
英雄ヴェオウルフの参戦を知ったジークフリート、ジワジワと過去が追ってきます。
その前に、乙女同士の闘いがありますが・・・。