貴賓席での騒動
「馬鹿な!こんなところで何をしておるのだ!シグルドの奴は!!」
ふと聞こえて来た罵声に、ガルガンチュアは観覧席の隣、各国から招かれた、賓客の為の観覧席に目をやった。
予想通り、それはミズガルズの賓客にして、英雄の一人と称された、老将ヴェオウルフの怒鳴り声であった。
「将軍!落ち着いて下さいよ!」
「放して下され!グットルム様!奴には国を出奔した理由を問いたださねばなりません!」
ヴェオウルフの腰にしがみ付き、押し留めているのは、グットルム伯爵、今やミズガルズの王位継承者となったグンナル公爵の弟である。
彼もまた、国家間同士の付き合いとして、リンドブルム王女に御近付きになろうと、ヴェオウルフと共にヴィーグリーズまでやって来たのであるが、王女に『自分より弱い男に興味はない!』とはっきり拒絶され、これでは面目が立たぬと、大闘技祭の観覧に出席していたのである。
ミズガルズにとって、ヴィーグリーズは休戦協定を結んだとはいえ、いまだに国家間の仲は良くない、敵国とまではいかないにしても、両国家間の確執は根強く残っているのである。
故に、参加するだけでも、グットルム伯爵の面子は保たれるのである。
しかし、護衛に付いてきたはずのヴェオウルフが、シグルドの姿を見つけて飛び出して行こうとしているのだ。
(頼むから、厄介事は勘弁してくれよ!)
元は、妾腹の身であったため、後継ぎとは縁もなかった彼は、現在の地位を守ることで、頭が一杯であった。
「いかがなされた?ミズガルズの御客人?」
「なんでもありません!御気になさらないでください。ガルガンチュア陛下。」
ガルガンチュアに声をかけられ、グットルムは全てを無かったことにしようとした。
しかし、ヴェオウルフはそれが気に入らなかったらしい。
「ガルガンチュア陛下!予選の枠にまだ空きがありますかな?」
「あればどうなされる?ヴェオウルフ殿?」
「この儂直々に、彼奴を取り押さえ、国へ連れ帰る所存にて!どうか!」
その返答を聞き、ガルガンチュアはニヤリと笑った。
(これは、面白い事になって来た。)
自身でも、ジークフリートが、リンドブルムに相応しい男かどうか、試そうと思っていたガルガンチュアは、その申し出を受けることにした。
「いいだろう!最終予選に参加されるがいい!ただし、命の保証はせんよ?」
「父上!?」
「陛下!よろしいので?」
リンドブルムと、結界を維持しているブラギから驚きの声が上がった。
途中参加など、他に例がなかったからだ。
「かの英雄、ヴェオウルフが、ヴィーグリーズの大闘技祭に出ようというのだ!断る訳には行くまい。」
「感謝いたしますぞ!ガルガンチュア陛下!」
ヴェオウルフが頭を下げるのを横目にみながら、ガルガンチュアは武舞台に視線を戻した。
そこでは、今まさに北門が開放され、巨獣が出現する所であった。
しかし、重戦士達が入ってこない。
代わりに現れたのは、全身が金色の鋼に覆われた、巨大な猪であった。
またしても、ジークフリートに強敵現る!
ちなみに、ヴェオウルフ伝説の英雄、ヴェオウルフが元になったキャラです。
というか、そのものです!
フルンティングという名剣の使い手です。




