戦士の心
『我が元に来たれ!剣よ!』
闘技場の闘士用の通路を疾走しながら、ジークフリートは炎の魔剣となったグラムを召喚した。
続きざまに獅子の遠吠えが響き、ジークフリートの魔導装甲、黒獅子の鎧が起動された。
『いつになく高ぶっているようだな。ご主人。』
グラムに姿を変えたヴィーが、ジークフリートに声をかけた。
ジークフリートは、抑えきれない笑みをうかべながら答えた。
「戦士なら、あんな闘いを見せられて、熱くならない訳ないだろ!お前は違うのか?ヴィー。」
『我もまた、炎の魔竜として戦いの中に身を置いていた者だ。気持ちは解るぞ!!』
「なら行くぞ!相棒!!」
『ああ!存分に暴れるとしよう!!ご主人!!』
すでに、南門は開放され、出場選手である闘士達は、入場を開始していた。
しかし、ジークフリートはスピードを緩めることなく、その闘士達に突っ込んでいった。
ぶつかる寸前、ドンッ!と鈍い音が響いた。
ジークフリートが、通路を蹴って、闘士達の頭上を飛び越えたのだ。
跳ね橋を越え、闘技場の端まで来た所で、ようやく着地した。
観客達は、突如として現れた闘士に、一瞬静まり返ったが、立ち上がったジークフリートの佇まいに、通常の闘士には感じることのない覇気を見て取ったヴィーグリーズの民達は、大いに盛り上がり始めた。
その姿を見て反応したのは、観客達だけではない。
王の観覧席で見ていた、ヴィーグリーズの王であるガルガンチュアもそうであった。
「あれは、まさか黒獅子の鎧か?盟友ジグムントの鎧を何故あの若者が・・・。」
かつての盟友の鎧、それを纏った若者に興味を持ったのだ。
そこへ、愛娘であるリンドブルムが帰って来た。
「なんであそこまでやる気満々なんだ!まさか本気なのか!ジークフリートの奴!!」
「リンド。あの者が何者であるのか知っているのか?」
ガルガンチュアに質問されて、ようやくジークフリートから目を放したリンドブルムは、あわてて答えた。
「あの者はシグルド!かつてミズガルズに攻め入った際、何度も我が前に立ちはだかった宿敵です!」
「ほほう。」
「しかし!ヴァルムンクの王であった、剣王ジグムントの遺児であったことが判明し、その名もジークフリートであったことが分かった奴は、国を出奔し、私に求婚するため大闘技祭に出場し、よりによって、父上に挑もうとしている愚か者です!!」
順序の全く違う説明をしながら、しどろもどろに、顔を真っ赤にして答える愛娘の様子に、ガルガンチュアはニコリと微笑んだ。
(十八にもなって浮いた話の一つも出てこないと心配していたが、やはりリンドも年頃の娘だったか。)
嬉しさ半分、寂しさ半分の複雑な気持ちで、ガルガンチュアは己の娘を優しい目で見つめていた。
更新が遅れて申し訳ありません!