男性部門開戦
『決りましたーーー!決勝戦に進出したのは、我らが紅の戦姫、リンドブルム王女です!!』
闘技場に響くアナウンスも、興奮気味である。
正に、完勝の内容であった。
今日一番の盛り上がりを見せるヴィーグリーズの民達を他所に、エルルーンは立ち上がれず、担架で運び出されていた。
東門から出て来たエルルーンに、ブリュンヒルデが駆け寄り、治療の魔法をかけた。
「『傷つきし肉の器に、癒しを与えよ!回復!!』」
しかし、エルルーンの様子に、変化は無かった。
「これは、状態異常か?」
「はい。おそらく、は、麻痺の状態、だと、思います。」
途切れ途切れに答えるエルルーンの表情は、悔しさに沈んでいた。
「その程度で済むとは、流石、薔薇十字騎士団の団長ですね。」
エルルーンに、言葉をかけてきたのは、フェルナンデスであった。
「俺があの一撃を受けた時は、全身に大火傷を負ったがな。」
フェルナンデスに続き、ゴライアスもエルルーンを讃えていた。
どうやら、このエルルーンも、ここヴィーグリーズでは、人気者であるらしいことが、鈍いジークフリートにも理解出来てきた。
そういえば、エルルーンもまた、二十歳という、この世界では行き遅れの部類に入ってしまう女性であるが、その凛とした佇まいと、薔薇十字聖騎士団の団長として、常に誇りを持って戦うその姿は、とても美しいものであると、ジークフリートは今更ながら気付いたのだった。
傍に、ブリュンヒルデという規格外の女性がいては、仕方のない事だと思うが。
「なるほどね。」
「何がなるほどなのだ?主殿。」
「いや。エルルーンは人気者だなと思ってな。」
「ここヴィーグリーズでは、気高く強い戦士であるほどに、尊敬と好意を向けられるからな。」
ジークフリートとブリュンヒルデの会話に割って入ったのは、リンドブルムであった。
彼女と共に来たらしい僧侶達が、エルルーンの麻痺状態を回復させていた。
「これで、心おきなくお前と闘える!ブリュンヒルデ!決勝で待っているぞ!」
「戦いの前に挨拶とは、そなたも酔狂よなリンドブルム!こちらも、手心は加えぬと言っておく!全力で行くぞ!」
フッと、リンドブルムは微笑むと、手を差し出した。
その手を握り返し、ブリュンヒルデもまた微笑んだ。
手を放し、去ろうとするリンドブルムに、ブリュンヒルデが呼びかけた。
「だが、主殿の正妻の座は渡さんぞ!リンドブルム!」
「違うと言ってるだろ!絶対に勝って吠え面かかせてやるからな!」
先程までの遣り取りが、台無しである。
ともあれ、女性部門決勝は、紅の戦姫、リンドブルムと、白銀の女騎士、ブリュンヒルデの二人が当たることとなったのである。
『続いて、男性部門第一予選を始めます。』
アナウンスが響き、予選に出場する闘士達が南門へ集まり始めた。
「よし!行ってくるか!」
ジークフリートは、気合いを入れ、南門へ駆けて行った。
その後ろ姿を見送り、ブリュンヒルデはポツリと呟いた。
「・・・これより伝説が始まるか。見届けさせてもらうぞ。主殿。」
エルルーンさん、ヴィーグリーズでは意外と人気者でした。
そして、始まるジークフリートの戦い。まずは予選ですが、一波乱ありそうです。