滅びの国
アルベリヒに誘われ、城内に入ったシグルドは、改めて、戦がこの城に与えた傷跡を目の当たりにした。
壁の至る所に欠損があり、良く崩れないなと思うほどである。
恐らくは、職人の腕と、硬化と定着の魔法が掛けられているのだろう。
しばらく進むと、中庭に出た。
そこで、シグルドは新たなアンデットに遭遇した。
死霊騎士二人を供に付けた、法衣を纏った死霊法師である。
『これは、司教様。』
アルベリヒが声を掛けると、その者達はシグルドに気が付き、近寄って来た。
シグルドは、思わず臨戦態勢をとるが、死霊法師は構うことなく続けた。
『アルベリヒ殿、その御仁は一体?』
アルベリヒは、シグルドをちらと一瞥すると、心配ないという風に頷いて見せた。
『実は・・・』
と先ほどまでの経緯を、その司教と呼ばれた死霊法師に語って聞かせた。その話を静かに聞いていた死霊法師は、少し考え込んでいたが、シグルドに視線を移し、何かに納得した様子で答えた。
『なるほどのう・・・ではここからの案内は、私に任せて、そなた達は王に仔細を話し、大聖堂までお連れして参れ。』
『ハハッ!』
死霊騎士達は、敬礼すると、アルベリヒと共に、足早に去って行った。
『さて、参りますかな。』
と言うと、死霊法師は、シグルドを警戒することもなく、背を向け、先行して歩き出した。
シグルドは、罠の可能性も考えたが、その全く無防備な背中を前に、その考えを改めた。おそらく、この死霊法士も門番をしていた者たちと同じく、生前は高潔な人物だったのだろうと推測した為である。
その死霊法師は、自らを司教ミーメと名乗り、案内の最中に、この国が滅ぶに至った経緯を語って聞かせ始めた。
『私たちも、初めは王を御諌め致しました。しかし、王の決心は固く、その御心を変えることは出来ませんでした。』
魔神族の姫と結婚したのは、どうやら事実であったらしい。
そこで、司教ミーメはその法力の力によって神託を受けてから、判断をすることにしたのだ。その内容とは、司教ミーメにとっても驚くべきものであった。
『王と魔神の姫の間に生まれるものこそ、この世界を滅びより救うもの。オーディン神の魂が自ら降臨し、私達に神託を下されたのです。』
その神託により、人々は王と魔神族の姫との結婚を認めることとなった。むしろ、二人の間に生まれるという者の誕生を妨げることはあってはならないと、司教ミーメ自身が応援したくらいであった。その甲斐あってか、二人は無事に結ばれ、その間に一人の王子が生まれたということであった。しかし、その喜びから一転、この国は滅びに向かうこととなるのである。シグルドは我知らずその話に聞き入っていた。何故か、その話を聞いていると、胸の内がザワつくのである。シグルドは不思議に思いつつ、司教ミーメの後に続き、ボロボロとなった城の中を進んで行った。
次でヒロイン登場です。