闘技場の御約束
「なんでしょう?勝利したというのに、釈然としないのですが・・・。」
ブツブツと呟きながら、武舞台からエルルーンが帰って来た。
そのエルルーンと摺れ違いながら、リンドブルムは声をかけた。
「見事だったなエルルーン殿、フォールクヴァングの薔薇十字騎士団を率いるだけはある。」
「こ、これは、リンドブルム王女。光栄であります。」
「次は、私の試合だ。楽しんでくれ。」
自身満々に、武舞台に進むその姿は、正に王者のそれであるが、彼女は未だ魔導装甲を纏っていない。
それは、一つの儀式となっている御約束の為である。
彼女が入場するだけで、客席は、爆発したような歓声が上がった。
共に入場した女闘士達も、慣れた感じでリンドブルムから距離を取っていた。
リンドブルムは、武舞台の中央に立つと、魔導装甲を発動させた。
深紅の光が輝き、闘技場の中心に華が咲いたようであった。
光が晴れると、そこに紅の鎧を纏ったリンドブルムの姿があった。
電光を引きながら、斧槍を装備したリンドブルムが、観客に向け拳を挙げると、客席からは、再び割れんばかりの歓声が上がった。
「なかなかに魅せてくれる!」
ジークフリートの横に立った、ブリュンヒルデが笑顔を輝かせた。
「本当に、こういうのが好きなんだな。」
「うむ!さて相手の巨獣は、一体何が出て来るのかな!?」
対面の門が開き、跳ね橋が下ろされた。
中から現れたのは、鎧のような外皮を持ち、大きな角を持つ、いわゆる犀であるが、大きさが犀のそれではない。
象位の大きさである。
「鎧皮犀!!それも、白銀の鎧皮!!変異種じゃないか!」
「流石、予選のトリを飾る巨獣だな!しかし、これは狙っていたのか?」
「いえ、去年は第一予選に出ておられました。その時の相手は、巨大蟹でしたからね。」
エルルーンが、ここぞとばかりに補足してきた。
エルルーンは、フォールクヴァングの招待選手として、何度か大闘技祭に出ているとのことだった。
リンドブルムとも、何度か剣を交えているらしいが、結果は・・・。
「全敗でした。」
悔しそうに、リンドブルムを見るエルルーンを、カーシャが讃えた。
「あの姫様と互角以上に闘えるアンタも、相当のもんだがね。」
どうやら、この二人も顔見知りらしい。
そして、武舞台では、第四予選が開始された所であった。
深紅の魔導装甲を着たリンドブルムは、他の出場者よりも、格段に目立っていた。
鎧皮犀は、拘束されていた鎖を引き千切り、一直線にリンドブルムに突っ込んでいった。
観客達は息を飲むが、リンドブルムの顔には、笑みが浮かんでいた。
「そんな遅い攻撃に当たるものか!喰らうがよい!我が深紅の雷を!!」
その言葉と共に、闘技場に雷光が迸った。
リンドブルムさんは、地元のアイドル的存在です。
正に、一人舞台!他の出場者さん達、ご愁傷様です。