白銀の女騎士
闘いが始まって既に、女闘士達の武器は、幾度か剣歯虎に当たっていたが、その分厚い毛皮と皮脂によって阻まれてしまっていた。
「クッ!?なんて固い体毛だい!刃が通らないなんて!」
「しかも、この巨体でなんて速さなの!」
何人かの女闘士達は、連携して死角からの攻撃を行っていた。
しかし、先に述べたように、決定打に繋がる一撃を加えることが出来ないでいた。
その最中に、ブリュンヒルデは、ゆっくりと歩いて近づいて行く。
観客達は、白銀の鎧に身を包んだ絶世の美女が、一体何をしようとしているのか、注目せずにはいられなかった。
しかも、肉食獣である剣歯虎の正面から接近して行くのである。
正面は、肉食獣にとって最も攻撃力を発揮することの出来る位置である。
故に、歴戦の戦士である女闘士達は、常に側面から攻撃していたのである。
誰もが、その無謀な行為に、唾を飲んだ。
客席にまわっていたシュベルトライテとジークルーネ、そしてディートリヒ達だけが、驚きも見せず見守っていただけである。
剣歯虎は、ブリュンヒルデに気付くと、体勢を低くした。
攻撃に移る為の、事前行動である。
堀の際に待機していた重戦士達も、すぐに救援に向かえるよう身構えた。
しかし、その予想は裏切られることとなる。
『ゴアアアアアアア!!』
「ヌウン!!」
ドゴオオ!!
全身全霊の力を込めて跳びかかった剣歯虎は、ブリュンヒルデが無造作に振るった盾の一撃によって弾き返されたのである。
その一瞬、闘技場は静寂に包まれ、次の瞬間、歓声が爆発した。
「「「「「ウオーーーーーーーーーー!!!!」」」」
「すげえ!なんだよ今の!」
「信じられないぜ!なんだ?あの姉ちゃん!!」
その間も、闘いは止まらない。
剣歯虎は、空中で体勢を立て直し、ブリュンヒルデに向きなおったが、既に彼女はその懐に飛び込んでいた。
「ハアッ!!」
ズンッ!!!
顎の真下から突き出された正義の剣が、剣歯虎の頭部を貫き通した。
剣歯虎の前足が、虚しく宙を掻き毟る。
ブリュンヒルデは、闘った相手に対して、最期の言葉をかけた。
「見事な闘いだったぞ!勇者よ!」
そして、一気に正義の剣を引き抜くと、倒れ込んできた剣歯虎の身体を躱しながら、今一度、剣を振るった。
ズズンと音がして剣歯虎が倒れると、その首が胴から離れて転がった。
「「「「ウオーーーーーーーーーーー!!!!」」」」
ブリュンヒルデのその強さに、闘技場は再び歓声に包まれた。
ジャーンとドラが鳴り、この闘いの勝者を告げる声が、響いた。
『第一予選、勝者決定!その名は、白銀の女騎士!ブリュンヒルデ殿!!』
その声を聞いたブリュンヒルデは、クルリと優雅に回ると、剣を天へと突き上げた。
闘技場の熱気は、最高潮に達した。
ブリュンヒルデさん、当然の如く勝利!
次なる試合は、どんなものとなるでしょうか?