開会
闘技場の中は、円形の武舞台の周りを堀がグルリと取り囲んでおり、柱が十二本建てられていた。
その柱と、同じ間隔で、客席側には、魔導士達が立っている。
客席に被害が出ないよう、結界を張ることのできる、高位の術者達である。
王の座る観覧席の前には、宮廷魔術師の筆頭であるブラギが陣取っていた。
王に危害を加えようという者への保険でもあるのだ。
ブリュンヒルデ達出場者は、武舞台に架けられた跳ね橋を渡っていった。
出場者の女性達は、いずれも歴戦の女戦士達である。
その面には、強者としての誇りが浮かんでいた。
出場者達十名ほどが、入場したあたりで、傭兵王ガルガンチュアが、開会の宣言を始めた。
「ついに、今年もこの時がやってきた!愛すべきヴィーグリーズの民達よ!今日ここに、大闘技祭の開会を宣言させてもらおう!出場者の諸君!この闘技祭で、日頃磨いた技を駆使し、その勇気を我等が女神に捧げよ!そして、掴み取れ!ここでしか手に入れることのできない栄光を!」
「「「「ウオーーー!!!!」」」
「「国王陛下バンザーイ!!」」
「「闘士達に栄光あれーーー!!」」
観客席からは、惜しみない賞讃と、祭りへの興奮で、歓声が上がった。
そんな中、出場者の女戦士達は、ガルガンチュアに対し、自分達の武器を掲げて、敬意を示していた。
武器を掲げていないのは、ブリュンヒルデのみである。
その態度が気に食わないのか、何人かの闘士達が、ブリュンヒルデを睨みつけているが、本人は全く別のことで頭が一杯だったのだ。
その視線は、ガルガンチュアの向こう、女神の封石を見つめていた。
(久しぶりだな、ゲルヒルデよ。いずれ封印は、主殿が解いてくれる。それまでの辛抱だ。)
ブリュンヒルデが、そう考えていた所、武舞台の対面の跳ね橋が下り、その奥から、重装甲を纏った重戦士たちが、鎖につないだ巨獣を引きずって来た。
黒い毛皮を持つ巨大な、剣歯虎である。
大きさは、牛などよりも遥かに大きい。
重戦士達はなんとか、武舞台の中央に引いて行きたいのだが、剣歯虎は、その巨躯をもって重戦士達を弾き飛ばしそうな勢いである。
三十名もの重戦士でも、抑えきれないようで、ついに一人吹き飛ばされた。
ちょどその瞬間、狙い済ませたように、予選の開始を知らせるドラが鳴り響いた。
「それでは!予選開始!!」
ガルガンチュアがそう叫ぶと、剣歯虎の首に繋がれていた鋼で造られた首輪が弾け飛んだ。
重戦士達は急いで堀側に退避すると、武器を抜いてそこに残った。
これは、闘士達が、命の危険にさらされた時、巨獣との間に割って入るためである。
武舞台では、闘士達が剣歯虎に躍りかかって行く所であった。
ブリュンヒルデは、少し遅れて歩き出した。
「では、勇者に相応しい最期を与えるとしよう!」
悠然と歩くその姿は、正に闘いの女神そのものであった。
ブリュンヒルデの最初の相手は、虎です。真黒ですが。
そして、第四の女神さん登場、まだ名前だけだけどね!