予選開始
大闘技祭の予選当日は、雲一つない晴天であった。
この城砦都市ヴィーグリーズの闘技祭は、八百長が入り込む余地のない予選が売りである。
なぜなら、相手は人間ではなく、野生の猛獣だからだ。
しかも、並みの猛獣ではない。
言わば主と呼ばれる特別な個体を、この街に所属する猛獣狩り屋達が捕まえてくるのだ。
彼等もまた、傭兵王ガルガンチュアに忠誠を誓った者達である。
この大闘技祭に、自分達の捕まえた獲物を出場させることは、一種のステータスと成っていた。
故に、本選に残るためには、百人単位のビーストハンターの猛者達が、命懸けで捕獲してきた、巨獣と十人単位で闘い、仕留めた者が、本選に進むことが出来るのである。
本選に残った戦士達は、それだけでも、勇者としてこの街では讃えられるのだ。
そしてそれは、女性部門でも変らない。
「では!行ってくる!主殿!」
「まあ、ほどほどにな。」
意気揚々と予選に向かう、ブリュンヒルデに、ジークフリートはやれやれといった感じで答えた。
正直、彼女に勝てる相手など、この世界に何人いると言うのか。
ジークフリートは、ブリュンヒルデの優勝を疑っていなかった。
予選会場に入ったブリュンヒルデに、最初に声をかけたのは、リンドブルムだった。
「逃げずにやって来たか!今日は前のようにはいかんぞ!必ず貴様に勝つ!」
ブリュンヒルデは、嬉しそうに答えた。
「それは楽しみだ!私も全力で応えよう!しかし、主殿も随分好かれているようだな。これは、負けられんな!」
再び、顔を赤くしながら、リンドブルムが反論した。
「だから!違うといってるだろ!・・・もういい!」
去っていくリンドブルムの後ろ姿を見ながら、ブリュンヒルデはニコリと微笑んだ。
その彼女に、話しかけた者がいた。
「アンタかい?うちの姫様に、ちょっかいかけた女騎士ってのは。」
ブリュンヒルデが振り向くと、そこには長い柄のバトルアックスを持つ、ビキニアーマーの女戦士が立っていた。
顔は整っており、なかなかの美人であるが、その眼光は肉食獣のそれであった。
髪は金髪でウエーブがかかっており、肌は褐色で所々に闘いで付いたであろう傷跡があった。
「アタイの名は、カーシャってんだ。この闘技場の女闘士だよ。アタイを差し置いて姫様に挑もうなんて百年早いよ!出直してくるんだね!」
ブリュンヒルデより頭二つ分背の高いカーシャは、ブリュンヒルデを見下ろすように威嚇して来た。
しかし、ブリュンヒルデは少しも動じることなく、神鎧甲を起動させた。
一瞬で、鎧姿となったブリュンヒルデに、周辺の者たちも目向けるが、それよりも、カーシャは戦士としての感覚により、その強さを肌で感じ取っていた。
「ただもんじゃないね?アンタ。」
「そなたもなかなかのものだ!これは、楽しみが増えたな!」
既に、ブリュンヒルデの予選ブロックの入場が始まっていた。
颯爽と会場入り口まで進むと、カーシャを振り返りこう告げた。
「本選であいまみえようぞ!異国の闘士よ!」
女性部門開始です!そして新たな女闘士登場も出てきました。この後の展開や如何に!