挑発
ゴライアスとフェルナンデスが、ジークフリートに宣戦布告をしているその時、リンドブルム姫は街中を疾走していた。
赤いドレスを着たまま、走るその姿を初めて見たものならば、まず驚くであろう。
しかし、ヴィーグリーズの民達は、実に慣れたものであった。
それどころか、疾走する姫に、声援を送る者たちもいた。
「おーい!姫様!!頑張れよー!!」
「応援してっからなー!」
「おねーちゃん頑張ってー!」
その様子から、リンドブルムがどれだけ街の者たちに慕われているのかがよく解る光景であった。
そんな声も、今のリンドブルムには、全く届いていなかった。
リンドブルムの頭の中では、ジークフリートの言葉が、何度も繰り返されていた。
『王位継承に係るあるものを頂く為に来た。』
(ダーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!一体何を言っているんだアイツは!!そもそも、私とアイツは不倶戴天の天敵同士であったのではなかったのか!?だいたいアイツは、ミズガルズのクリムヒルトのやつに惚れてたのではなかったのか!まさか、このために国を捨てたというのか!それはそれで嬉い・・・いや!何を考えているんだ私は!落ち着け!落ち着くんだ!!)
顔を赤くしたまま、思考がグチャグチャになったリンドブルムは、所構わず走り廻っていたが、その前に、空から降ってきた者があった。
リンドブルムは、思わず急停止した。
空から降ってきたのは、当然、ブリュンヒルデであった。
「なかなか元気があるな!ヴィーグリーズの姫よ!」
「お前は、先程の・・・何の用だ!」
「そなたに確かめたいことがあってな!それで追って来たのだ!」
「確かめたいことだと?」
ウムと頷くと、ブリュンヒルデはリンドブルムにぶっ放した。
「そなた主殿に惚れておるな!」
リンドブルムは、一瞬固まると、真っ赤になって反論した。
「馬鹿な!シグルド・・・いやジークフリートだったか、奴はヴィーグリーズが領土拡大のため、ミズガルズに侵攻する度に、私の前に立ちはだかった宿敵だぞ!」
それを聞いたブリュンヒルデは、ウムウムと訳知り顔で頷くと、更に続けた。
「解るぞ!我々のような戦いの中で生きることを知ってしまった女は、自分より強い男に惹かれるものだからな!」
「違うと言ってるだろ!」
「だがしかし!!」
「!?」
「正妻の私の許可無しに、主殿の婚約者に名を連ねることは許さん!!」
「正妻だと?」
「その通り!我が主殿は、ヴァルムンクが王ジグムントが遺児、つまり、第一王位継承者である!」
「な!なんだと!ジークフリートが、ヴァルムンクの王子だと言うのか!?」
「故に!」
ブリュンヒルデは、ビシッ!とリンドブルムを指差し、こう宣言した。
「私が認めなければ、そなたの初恋は実らんということだ!大闘技祭に私も出場するゆえ挑んでくるがいい!リンドブルムよ!!」
「だから!そんなことは思っていないと言っているだろ!」
「顔を赤くして言った所で、説得力に欠けるぞ!では!闘いの場で逢おう!」
そう言うだけ言うと、ブリュンヒルデは風のように去っていった。
「違うと言ってるだろーーーー!!!」
ヴィーグリーズの市街地に、リンドブルムの叫び声が、虚しく響いていた。
ブリュンヒルデさん爆走中!リンドブルムの本心は、どうなんでしょうね?