闘技場
知らずジークフリートは、その身に秘められた闘気を放っていた。
山車の上にいたガルガンチュアがその闘気に気付き、民衆に向けていた笑顔を引き締めた。
「陛下?」
山車に共に乗っていた宮廷魔術師の筆頭であるブラギが、怪訝そうに尋ねた。
ガルガンチュアは、群衆の中に、一人の青年の姿を見出した。
そして、口元に笑みを浮かべると、
「いや。なんでもない。」
と答え、パレードをそのまま進行させた。
一方のジークフリートも、クルリと踵を返すと、闘技場に向けて歩き始めた。
「よいのか?主殿。」
「いいさ、それに挨拶は済んだ。」
「なるほど、そういうことだったんですね。主様。」
「粋なことをされますね。ご主人様。」
「我には、人間の心理は、よく分からん。」
五人は、祭の喧騒の中を進んでいった。
途中、何度かブリュンヒルデ達の美貌が元で、何度か騒動が起きたが、その騒動は、衛兵が来る前に、彼女たち自身の手で、終息させられていた。
正直、ジークフリートが何とかしようとする前に、終わらせてしまうので、出番はなかった。
「容赦無いのう。お姉さま方も。」
「ご主人様の手を煩わせる必要はありません。」
「そうだとも、我らの実力を持ってすればあの程度の連中、物の数ではないさ!」
「随分目立ってしまいましたがね。」
「災難だったなあの連中。俺でさえ易々とは勝たせてもらえないってのに、外見に騙されて、あの様か。」
ジークフリートは、自分達の通って来た道を振り返った。
正に、死屍累々といった風情である。
ともあれ、一行は、闘技場に到着した。
最初に浮かんだ感想は、デカイ!ということだった。
闘技場に続く、長い階段には、大闘技祭に出場するであろう闘士達がたむろしていた。
その中を、一行は堂々と進んでいった。
何故か、彼らに絡んでくる者は、皆無であった。
その理由は、一つであった。
「おい、あいつは・・・。」
「間違いねえ!竜殺しじゃねえか・・・。」
ここに集まっている連中は、殆どが名の知れた闘士達である。
ジークフリートの事を知らぬ者を探す方が難しい位である。
それ故、大会への出場を申請する受付に問題無く到着した。
問題が起きたのは、その後である。
ジークフリートが、出場の申請書に名を書こうとした時であった。
後方から、なにやら騒がしい一団が近づいてきたのである。
「今年こそ、お前とは決着をつけてやるぜ!」
「貴方は、私には勝てません。姫の婚約者は、私で決まりですよ。」
筋骨隆々の大男と、長髪の優男が睨みあいながら受付にやってきた。
「そういうことは、せめて私に勝ってから言え!少なくとも、私は自分より弱い男の嫁になるつもりは無いからな!」
「「そんな~姫様~(泣)」」
二人の男の間から、赤い髪を靡かせた赤いドレスの女性が現れた。
その女性は、ジークフリートの隣に来ると、出場の申請書を要求したが、ふとジークフリートを見ると、目を見開いて固まった。
ジークフリートは、この後どういう展開になるのか分かっていたが、敢えてその女性と、目を合わせた。
「キサ、キサマは・・・。」
「久しぶりだな。紅の戦姫リンドブルム殿。」
「キッサマー!!!シグルドーーー!!!」
ジークフリートの過去に係る女性登場!その名は、紅の戦姫リンドブルム!彼女は、物語にどう関わってくるのでしょうか?