城砦都市ヴィーグリーズ
「ヴィーグリーズが見えたぞー!」
その日の朝は、見張りのその声から始まった。
大闘技祭が開催されるその時期は、世界各地から腕自慢の男達や女達、そして、その腕自慢の者達を雇おうという富豪たちも集まってくるのだ。
元々、ヴィーグリーズは少数の国家の総合体であったが、部族間の争いが絶えなかった。
しかし、その争いを収めたのが、初代傭兵王であるデリングであった。
それ以降、彼の功績を讃えて、ヴィーグリーズの人々は、腕を競い合う闘士達の闘いを彼が闘技場に据えた、女神の封石の神前に捧げる祭を始めたのだ。
ヴィーグリーズの掟はただ一つである。
それは、強者であれということ、である。
ジークフリートは、そのことを嫌というほど知っていた。
ディートリヒ達はすでに、接岸のための準備に入っていた。
ヴィーグリーズは、フィンブリスルの大河から、直接街の中に入ることのできる巨大な水路と、港があるのであった。
そして、都市に近づくにつれ、他の船の姿が見え始めた。
この船団は、すべて商船である。
一年に一度行われるこの大イベントのため、各地の豪商達も集まってくるのだ。
流石に、大河の往き来に使う船は全て魔法帆船である。
しかし、スキーズブラズニルの大きさは、他の船に比べても、一際目立っていた。
自然と、注目されたのか、入港審査のための警備艇が、真っ先に飛んできた。
ディートリヒは、慣れたもので、落ち着いて対処したものだった。
ジークフリートは、今更ながら、ディートリヒの隊商で培った手腕に感服した。
「大したものだな。俺には、ああいうことは出来ないからな。」
「人には、それぞれの役割がある。主殿には、主殿にしか出来ぬことがあるのだ。それを忘れなければよい。」
入国は、実に簡単に許可された。
ディートリヒが、商業ギルドの許可証を持っていたおかげである。
それに、フヴェルゲルミルの鮮魚は有名である。
船底の倉庫を見た入国審査員は、これはいいものですねと、一発で合格させたほどであった。
こうして、ジークフリート一行は、城砦都市ヴィーグリーズへの入国を果たした。
ディートリヒ達は、商品を捌いてから合流するということで、一時、別行動することになった。
ジークフリート一行は、闘技祭に出場するため、闘技場に向けて歩き出した。
街の中は、既に祭り一色であった。
人だかりの中でも、ブリュンヒルデ達は目立っていたが、それにも増して、人々が熱狂しているものがあった。
パレードである。
傭兵王ガルガンチュア自身が、街中を山車に乗って、練り歩くのだ。
「凄いものだな!主殿!」
「ああ!あれがガルガンチュアだ!」
人混みの所為で、やや怒鳴りがちに遣り取りをしていた一行の前に、大きな山車に乗った大男が通過していた。
赤毛の髪と立派な髭が印象的であった。
金色の魔導装甲に身を包み、身の丈とほぼ同じくらいの、戦鎚を持った偉丈夫である。
「そして、あれが雷神の鎚、ニョルニルだ!」
雷帝さん登場!ちなみにニョルニルとは、マイティーソーにも出てくるあれです。この話のニョルニルは、かなり長い握りの部分のあるウォーハンマーですが。