会得
黒龍太子ファーブニルが、城砦都市ヴィーグリーズに向けて飛び立ったなどとは、露知らぬジークフリート一行は、すでに後一日で、ヴィーグリーズに着く所まで来ていた。
今日も朝から、スキーズブラズニルの甲板上で、修行に明け暮れていた。
「しかし殿下も、毎日毎日よく飽きないものだな。」
「ああ、しかも死の苦痛まで味わう事になるらしいからな。」
ディートリヒの部下達も、その壮絶ともいえる修行に、心配を禁じ得なかった。
「ほらほら、ジークフリート殿下の邪魔ですよ。持ち場に戻って!」
アリシアに急かされ、部下達は持ち場に戻っていった。
現在、ディートリヒの部下は、拠点であるウルザブルンに、三分の一ほどの人員が残っていた。
それゆえ、少ない人材でこの魔法帆船スキーズブラズニルを操船するには、交代要員も含め、ギリギリの人数であった。
遣り繰りをしているのは、アリシアである。
夫であるディートリヒは、ジークフリート達について離れないため、スキーズブラズニルを航行させているのは、彼女であった。
アリシアが、甲板上に出ると、そこには、ここ数日で見慣れた光景があった。
ジークフリート、ブリュンヒルデ、シュベルトライテの三人が魔法陣の上に座り、ジークルーネがその魔法陣の前に立ち、目を閉じ、魔法の制御に集中していた。
ジークフリートの膝の上には、グラムとなったヴィーが収まっていた。
時折、その宝玉が、点滅したりしているが、いつものことであった。
しかし、ディートリヒの表情には、緊張があった。
「あなた?」
「シッ!今大事な所なんだ!恐らく決着が付きそうなんだと思うが、見てみろ。」
ディートリヒに促され、三人を見たアリシアは驚いた。
今までとは確かに違う、ブリュンヒルデとシュベルトライテの二人の顔に汗が浮かび、眉間には皺が寄っていた。
明らかに、ジークフリートが優勢なのだ。
だが、次の瞬間、驚くべき光景を、二人は目にすることになる。
ジークフリートの身体が、金色の光を発したのだ。
「オオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「クッ!!」
「ウウッ!!」
ジークフリートが雄叫びを上げると、ブリュンヒルデと、シュベルトライテが、苦悶の声を上げ倒れこんだ。
そして、ジークフリートの膝の上のグラムが、眩い光を発しその形状を変えたのだ。
「や、やったな!主殿!見事神技をモノにするとは!」
「お、おめでとうございます。流石は主様、本当にやり遂げてしまうとは・・・。」
『な、なんだこれは!我の姿が変わっているではないか!』
「おそらく、貴方とご主人様との同調が深まったからでしょう。」
『そうか!あの一瞬の、二つの心が、一つになる感覚。あれがそうなのだな。』
赤い魔剣が、今は深紅に染まっていた。
「成長する魔剣か。凄いじゃないか。ヴィー!」
『ワハハ!もっと褒めるがよい。マスター!』
ジークフリート達は、ディートリヒ達そっちのけで盛り上がっていた。
だが、ディートリヒはその様子に、満足そうに頷き、アリシアに言った。
「アリシア。殿下達に、昼食を用意して差し上げてくれないか。丁度いい時間だしな。」
「分かったわ。あなた。」
アリシアは、嬉しそうに昼食の準備にかかった。
ジークフリート、神技獲得!いずれ披露いたします。そして、いよいよ、闘技祭の開かれるヴィーグリーズへ!どんな戦いが、ジークフリート達を待ち受けているのでしょうか。