決闘
二人は同時に大地を蹴った。
ガッッキイイイイィィィン!!
二人が交錯すると、凄まじい音が響き渡った。
そのままの勢いで、再び二人が離れる。
(浅い・・・)
シグルドは、そう手応えに感じていた。
『・・・槍の穂先を、叩き落とし、その上一撃入れるとはな。』
向きなおりながら、ヴィーザルは感心していた。
ヴィーザルの魔導装甲には、シグルドが付けたであろう亀裂が、脇腹に刻まれていた。
しかし、それはやはり、決定打とはならなかった。
『やはり、貴公には無理か・・・。』
ヴィーザルは、残念そうに首を振った。
ところが、シグルドは落胆することもなく、むしろ嬉しそうにこう言った。
「そちらは、全力を出していない。なのに決着が付いたらつまらんだろう?」
ヴィーザルは、先程の一撃が様子見であったことを看破されたことにも驚かず、淡々とこう答えた。
『それは其方もではないのかな?』
その返答を聞いてシグルドは歓喜に震えた。ここまでの相手に出会えることはそうそうない。戦うことこそが、今のジークフリートにとっての喜びであった。
「なるほど・・・確かに出し惜しみは良くないな!」
そういった瞬間、シグルドの全身から闘気が溢れ出した。
と同時に、魔導装甲に刻まれた刻印が赤く輝きだした。
この現象は、人間の生体エネルギーが魔道装甲に行き渡り、その性能を完全に引き出すことを意味する。
生身では引き出すことの出来ない領域まで、その力は増していく。
そして、その限界性能は、装者の闘気の総量に比例するのだ。
全身の刻印が輝き、シグルドの発する闘気が収束する。全ての力を込めた一撃を放つ為である。
その様子に、ヴィーザルもまた、その一撃に応える為、鬼気を立ち昇らせ始める。
『全く持って、その通りだな!』
そう言うと、ヴィーザルの魔導装甲の刻印も輝きだした。
こちらは、鬼気そのものに触発されたような紫光の輝きである。
シグルドはアンデッドの類が、生体エネルギーも無しに、魔導装甲を起動させたことに驚かされたが、それは彼にとって些細なことだった。
目の前の相手は、全神経を集中させるに値する相手である。
それに今度は相手も全力だ。ほんの少しの油断が死に繋がるということを、シグルドはその経験によって知っていた。
相手の挙動を見逃すような愚は犯さない。瞬きもせずシグルドはその時を待った。そして、
『ウオオオオオオ!!!』
咆哮を上げ、ヴィーザルが、まるで砲弾のように跳んできた。
その穂先が、音速を越えて、シグルドに襲いかかる。
だが、その兆しを読んでいたシグルドも既に剣を振るっていた。
閃光と化した剣が、槍と交叉した瞬間、
ッッシャッキイイイイイイィィィン!!!
金属を切り裂いた音が鳴り響き、二人は互いにすれ違い、その動きを止めた。
そして、辺りは、再び廃墟の静寂を取り戻した。
決着がつきました。