暗黒の竜
ツカツカと足早にファーブニルの前に歩み寄ったヘルは、城砦都市ヴィーグリーズ攻略の概要が示されている地図の乗った机の上に、バン!と右の手を叩きつけた。
その衝撃で、魔神族を示す駒が、いくらか倒れた。
「なぜ、フェンリルをフォールクヴァングまで来させたのですか!私では不服でしたか!ならば、そう言って下さい!」
ファーブニルは、頭を抱えたくなったが、まずは、ヘルの質問に答えることにした。
「あれは、フェンリルのやつが、お前を案じて、街の近くで待機していただけだ。それに、私も後詰は必要だと思った。ゆえに、フェンリルを行かせたのだ。」
未だ怒りを顔に浮かべているヘルに、ファーブニルは続けた。
「お前の気持ちは解る。しかし、我らは私心で戦っている訳ではない。それに、お前はミストルティンの使い手だ。望むと望まざるとにかかわらず、お前は、同胞のために生きねばならん。フォールクヴァングの兵は、すでに撤退させた。今は怒りを収めて、次の目的地城砦都市ヴィーグリーズへ付いて来てくれぬか?」
納得しきれていないヘルであったが、ファーブニルの言には筋が通っていたため、怒りを収めることにした。
「ここは、兄上の顔を立てましょう。しかし、私は光の聖教会を滅ぼすまで、死ぬつもりはありません。御心配は無用です。」
その言葉に頷き、ファーブニルは、ファーゾルトとエキドナに向きなおった。
「ガルガンチュアとは、私が戦う!出陣するぞ!」
「「ハハッ!!」」
「承知しました。兄上。」
ファーブニル達は、王宮を出ると中庭へ出た。
「ファーゾルト、お主がエキドナを連れて行け。ヘルは私と共に来い。」
そう言うと、ファーブニルの全身から、黒い炎が噴出した。
その炎の中から、巨大な飛翼が現れた。
次に、現れたのは漆黒の竜麟に覆われた身体であった。
四本の足が大地に降り立ち、その圧倒的な威容は、見る者全てに恐怖を与えるかのようである。
それが、ファーブニルの本来の姿である、黒竜としての姿であった。
「なんと、雄々しい。ヨルムンガルド様の兄君様だけのことはある。」
エキドナが、その顔に浮かんだ畏怖を隠さず呟いた。
ファーゾルトは、エキドナのその様子に、満足そうに微笑すると、自らも本来の姿に戻るべく、紫の炎に包まれた。
ファーゾルトもまた、その本性は竜であった。
それも、古代竜の成竜である。
『空を翔けるのも、久方ぶりですな。若!』
『若はよせ、ファーゾルト。ヘルよ、しかと摑まれよ!』
そう言うと、二匹の巨竜は、空へと舞い上がった。
『フェニヤのやつが、首を長くして待っていますぞ。』
『そうだな!急ぐぞ!』
城砦都市ヴィーグリーズへ向け、破壊をもたらす矢が放たれた。
ファーブニルさんの正体は黒龍でした。果たして、戦いの行方やいかに!