黒龍太子の策謀
ジークフリート一行が、スキーズブラズニルの甲板上で、修行に明け暮れているその時、かつてダインヘイムと呼ばれていた王国は、今や魔神族の人間界への侵攻のための橋頭保として、造りかえられていた。
その王城の中では、黒龍太子ファーブニルが、次の大封印の解除に向けての戦略を練っている最中であった。
「大闘技祭とは、都合がいい。祭りに浮かれている人間共の背後を突いてくれよう。」
「しかし、かの城砦都市ヴィーグリーズには、傭兵王ガルガンチュアがおります。ギンヌンガカプでの戦いで、彼奴には、辛酸を嘗めさせられましたからな。」
ファーブニルの前に立つ巨漢が、意見を出した。
ファーブニルと同じく、黒一色の鎧を纏った、まさに戦士という外見の男であるが、彼こそ、ファーブニルの参謀であり、右腕である戦将ファーゾルトであった。
「しかし、その戦に、勝ったと思わせて、主戦力が去った後、今一度の奇襲を行い、見事に勝利を収めました。流石、と言うべきでしょうね。」
ファーゾルトの後に続き、クスクスと笑いながら、その話を補足した女性は、なんと下半身が蛇身であった。
「不敬であるぞ!エキドナ!いくらヨルムンガルド様の将といえど、それ以上のファーブニル様への無礼は許さん!」
「あら、ごめんあそばせ。むしろ、賞讃したのですがね。巨人族の精鋭二百名を捨石とするなど、並みの将では実行することなど、不可能でしょうから。」
「貴様!!!」
「止めよ!ファーゾルト!エキドナの言うことも尤もだ。我は勝利を得るため、敢えて彼等を死地に向かわせたのだからな。」
「若・・・。」
ファーブニルの顔には、言いようのない苦しみが現れたいた。
その姿を見て、エキドナは、居住いを正し、頭を下げて謝罪した。
「申し訳ありません。ヨルムンガルド様より、兵を預かっている身として、ファーブニル様の在り様を見極めようとしたのですが、無粋でありました。」
そう、彼女はヨルムンガルドに命じられ、ファーブニルの作戦に、参加するために、ここに派遣されていたのだった。
机上には、作戦のための戦略地図が置かれていた。
城砦都市ヴィーグリーズの四方には、魔神族を示す駒が置かれていた。
と、その立ち入りが規制されている部屋へ突如、侵入してきたものがいた。
「兄上!居られるか!」
それは、フォールクヴァングで大封印を破壊して、見事にロキの魂の欠片を手に入れて帰ってきた夜の女神ヘルであった。
その表情は、静かな怒りに燃えていた。
ファーブニルさん再登場!ただの悪役ではありません!彼には、彼の正義があるのですね!ジークフリート達とどう係っていくのでしょう。