炎の魔剣
「ではよいか?ジークフリートよ。」
そこで、ジークルーネがヴィーを注意した。
「違うでしょう。ヴィー。ご主人様の事をどう呼ぶのか、キチンと教えたはずですが・・・。」
「うう・・・。」
ヴィーは、口をへの字に曲げていたが、ジークフリートのほうを振り向くと、こう呼んだ。
「ご主人!!」
その様子に、ジークルーネは満足そうに頷いた。
ヴィーの方は、ほとんどヤケであるが、それでも説明を始めた。
「まず、我とマスターとの間には、すでに絆が出来ておる。それは、我が死を受け入れたあのとき発した言葉に起因するのだが。」
ジークフリートは、ヴァルカンであったころのヴィーの言葉を思い出した。
「たしか、俺の名を魂に刻むと言っていたな。」
「そうだ。あの時、我はマスターに屈服した。それは我を僕として操れる力を手に入れたのと同義なのだ。つまり、どれほど離れていようが、マスターは、我を召喚することが出来るはずだ。鍵となる言葉を唱えることによって魔法は発動する。唱えよ、『我が元に来たれ、剣よ!』」
ジークフリートは頷くと、キーワードを唱えた。
『我が元に来たれ、剣よ!』
その瞬間、ヴィーは炎に包まれ消えた、と同時に、ジークフリートの眼前に、炎を纏ったグラムが現れた。
グラムが宙に浮きながら、ヴィーの声を発した。
『マスター、恐れることは無い。我が炎は、マスターを傷つけることは決して無い。』
ジークフリートは、その言葉を信じ、グラムを手に取った。
すると、得も言われぬ感覚があった。
まるで、自分の力が、跳ね上がったような気がしたのだ。
「気のせいか、力が上がった気がするが。」
『気のせいではない。我の力そのものをグラムが再現しているのだ。さらに、我は炎竜の二つ名を持つ古代竜であった。その炎に対する耐性も、火の属性の魔法を扱うことも出来る。マスターの思いのままに、我が力を使うことが可能だ。』
ジークフリートは、試しに、グラムに念じて炎弾を作ってみた。
「ふむ。火炎弾の魔法ですね。」
ジークルーネが、興味深そうに、呟いた。
炎弾は、船から飛び出し、大河に落ちて小規模な爆発を起こした。
「なるほど、本当に炎の力が使える訳だ。これなら、神技に手が届くかもしれんな。」
神技とは、秘技を超える技である。
これを習得できた剣士は、剣聖の称号を得ることが出来るのである。
「あの、雷帝ガルガンチュアに並ぶには、それしかない。城砦都市ヴィーグリーズに着くまでに、何とかモノにしないとな。しかし・・・。」
ジークフリートは、疲れた表情で、船のマストを見た。
そこには、ブリュンヒルデと、シュベルトライテが、まるで隠れるように立っているのだ。
そして、時々こちらを覗くのである。
「ハイメとナターシャの婚約、というよりプロポーズが羨ましかったのでしょう。乙女の夢ですからね。」
と、ジークルーネが溜息と共に洩らした。
グラムがクラスアップしました。宝剣から、炎の魔剣へ変りました。