魔法帆船
ジークフリート一行と、ディートリヒ達は、魔法帆船スキーズブラズニルに乗り、船出を果たしていた。
ハイメの告白から二日、スキーズブラズニルの進水式やら、城砦都市ヴィーグリーズへ輸出するための鮮魚の確保に大忙しの時間を過ごした。
しかし、スキーズブラズニルは、一同の期待以上の代物であった。
水流をものともせず、時には逆に流れる河川を溯った。
魔法の掛けられたその船体は、水のある所であるのなら、どこへでも行ける力を持っていた。
更に、船体の下部に備えられている倉庫は、入れた物の鮮度を保ち、その許容量は、見た目の約十倍という、空間魔法を付与されていた。
一同は、この船、スキーズブラズニルを建造した船匠シンドリの、魔法造船の凄さに、改めて敬服したことだったが、シンドリはこう言ったのだ。
「ワシの魔法造船技術は、まだまだ未熟じゃよ。かの太陽の船フリングホルニと比べれば、こんな船など、玩具も同然じゃ。」
一同は、太陽の船なるものが、どのようなものであるのか知らなかったため、首を傾げたが、ジークルーネが進み出るとこう言った。
「光の神バルドル神の太陽の船ですか。あなたの向上心は、昔から変わりませんね。シンドリ。」
シンドリは、不思議そうな顔をしてジークルーネを見つめた。
そして彼女が、フヴェルゲルミルに祀られていた女神であり、英知を司る存在であると聞かされた時、シンドリは最初は疑ったものの、自分が船を造る際、毎回、幻の塔に存在すると言う女神に祈りを捧げていたことを聞かされ、ジークルーネが、自分の信奉する女神であったことを知って驚き、ぎっくり腰が再発するなどという事件が起こった。
あとは、ハイメが泣きながらウルザブルンに残ることを決めた。
ディートリヒ達は、これが別れではないと、慰めるのに必死であった。
それ以外は、まことに順調であった。
街の住民達は、自分達のため日夜働いているナターシャの婚約を祝うため協力を惜しまなかったし、ジークフリートが資金を提供したおかげで、街はドラゴンのもたらした災厄から完全に抜け出したからだ。
こうして、一同は城砦都市ヴィーグリーズへ向け出発したのである。
スキーズブラズニルは、フィンブリスルの大河の急流の上をまるで、小波に揺られているように、快適に進んでいた。
船上では、ディートリヒの率いて来た隊員たちが、操船に精を出していた。
ジークフリート一行は、甲板でヴァルカンの能力について本人から聞いている最中であった。
「では、ヴィー、あなたの能力について、ご主人様に説明なさい。」
「はい!お姉様!」
ちなみに、ヴィーというのはヴァルカンの愛称らしい、ブリュンヒルデ達が女の子らしくないというので、皆で意見を出し合い、それに納まったらしい。
本人も気に入っているので、何も問題なさそうである。
ついこの間、命を賭けて闘ったとは思えない懐き具合であった。
ようやく、出航しました。ハイメさん居残りです。
そして、ヴィーの能力とは?