プロポーズ
船匠シンドリは、杖をつきながら、宴会の開かれている部屋に入ってきた。
「親父さん!起きてきて大丈夫なのかよ!?」
「ただのぎっくり腰じゃ!寝とれば治るわい!」
「病気じゃなかったのかよ。」
「ワシの弟子どもが、ナターシャを連れ戻すために、一芝居打ったのじゃよ。」
「みんな、父さんの身体を気遣ってくれたんじゃない。」
「この程度で、どうにかなるほど耄碌しとらん!それよりもじゃ!」
シンドリは、杖の先をハイメに向けた。
「ワシの魔法帆船スキーズブラズニルを譲るには、一つ条件がある!ハイメの小僧!お前がナターシャを幸せにすると約束するならじゃ!」
そういうと、シンドリは、悪戯っ子の様に、ニンマリと笑った。
「と、父さん!何を言いだすの!」
ナターシャはすでに全身真っ赤である。
「なに、ディートリヒの隊商の連中なら、スキーズブラズニルを譲るのには、申し分ない。しかし、ハイメの小僧には、そろそろ覚悟を決めてもらおうと思ってのう。で、どうなんじゃ?」
ハイメは、シンドリに問われ動揺していたようだが、頭を掻きながら、懐から、小箱を取り出してこう言った。
「本当は、落ち着いてから渡すつもりだったのによ・・・。」
その小箱を、ナターシャに差しだし、跪いた。
ナターシャは、驚いてハイメを涙目で見つめた。
「俺は不器用で、うまい言葉なんて浮かばねえ。けど、お前が大事なのは俺だって同じだ。だから、俺でいいって言うんなら受け取ってくれ。」
ナターシャは恐る恐る受け取ると、小箱を開けた。
中には、宝石をあしらった指輪が入っていた。
「これ・・・。」
「いつか、渡そうとしていたんだよ。けど、照れ臭くてよ。その・・・。」
そこまで言った所で、ナターシャがハイメに抱きついた。
宴会場は、歓声に包まれた。
隊商の隊員たちは、こぞって手を叩きディートリヒとアリシアは、ハイメとナターシャを祝福した。
ジークフリート一行も、その中に入っていった。
戦勝の宴は、期せずして婚約の会場と化したのだった。
ジークフリートは、ヴァルカンの財宝の一部を、さらに祝い金として出し、恐縮する二人に、ならば街のために使えと、強引に渡した。
その様子を見ていたディートリヒは、ジークフリートに提案した。
「殿下、貴方の頼み、引き受けましょう!その第一の目的地として、我々は、貴方達と共に城砦都市ヴィーグリーズへ向かいます。」
「なるほど!考えたなディートリヒ!」
その考えに、ハイメも賛成した。
「ヴィーグリーズなら、フィンブリスルの大河から出発すればよい。ディートリヒの隊商なら、以前ワシが操船技術をみっちり叩きこんでおいたからのう。どうだ?役に立ったろう、ディートリヒよ!」
ガハハ!と笑うシンドリにディートリヒは、その先見の明に頭が下がる思いだった。
こうして、ジークフリート一行は、ディートリヒ達と共に、次の目的地へと向かうことになった。
ハイメさん、漢を見せました。そして、ディートリヒの隊商は、船、それも、魔法帆船スキーズブラズニルを手に入れ、貿易会社にランクアップしました。次なる目的地は、城砦都市ヴィーグリーズです。そこでの、新たな出会いとは・・・。次章お楽しみに!