船匠
ジークフリートの真剣な様子から、ディートリヒは身を引き締めた。
「これを支度金にして、商売を始めてほしいんだ。内容はこれまでと同じでいい。隊商としての行動範囲を利用して、かつてのヴァルムンクの住民達を探し出して、故国の復興に参加するのか聞いて回ってほしいんだ。」
それを聞いて、ディートリヒは、ハッとした。
そう、ジークフリートは、ヴァルムンクの復興を真剣に考えていたのだ。
ディートリヒは、震えた。
すでに、諦めかけていた希望、それが突如として目の前に現れたのである。
「なら、拠点はここ、ウルザブルンで決まりね!」
話を聞いていたナターシャが、発言した。
「フヴェルゲルミルは、エーリヴァーガルで各主要都市と繋がっているわ。それを利用して貿易を始めるのよ!」
「だが船がねえぞ!それがなけりゃ貿易もクソもねえだろ!」
ハイメのその言葉を聞いて、ナターシャはフッフッフと肩を揺らした。
「あなた、この街が何で有名なのか忘れてたの?」
「そりゃあ、漁業と造船・・・。そうか!!」
「しかも、うってつけの船があるのよ!値段は少し高いけどね。」
ジークフリートは、ナターシャに言った。
「金に糸目はつけない。最高の船を頼みたい!」
「なら早速父さんに、話を通さなきゃ!」
そう言うと、ナターシャは、父親の部屋へと駆けだした。
「やれやれ、相変わらず、思い立ったらすぐに行動する奴だ。」
そう言うハイメに、ディートリヒは歩み寄った。
「拠点には責任者が必要だ。ハイメ、お前が残れ!」
「何!これから、ヴァルムンクの復興がなるかもしれないって時に、何言ってやがる!俺は残らねーぞ!」
その話を聞いていたブリュンヒルデが、ハイメに言った。
「ディートリヒは、お前とナターシャの事を想って言ったのだろうよ。私も賛成だがな!」
「そ、そんなこと言われてもよ。」
「私は、守護を司る女神だ!ナターシャがそなたの事を想い、毎晩、私に祈りを捧げていたのだぞ!コレに応えなければ漢ではない!それに、皆を陰から支えることも、重要な役割だぞ!」
そこまで、言った所で、ウオッホン!という咳払いが聞こえた。
皆が、部屋の入り口を見ると、見事な髭を蓄えた老人と共に、顔を真っ赤にしたナターシャが立っていた。
「ワシの造った魔法帆船スキーズブラズニルを譲ってほしいと言うのは、お前さん達かね。」
その老人こそ、この街の前町長であり、孤児であったナターシャを拾い、育て上げた、船匠シンドリというドゥベルグ(ドワーフ)であった。
北欧神話で、ドゥベルグとはドワーフのことです。