凱旋
転移の光から解放されると、そこはウルザブルンの港であった。
「あの爺さん、すごいな・・・。」
「伊達に、大賢神などと呼ばれてないということだ!それに、あの老人の姿は仮初めのものだ。本体は、もっと大きい。巨人と言ってもいいくらいにな!」
「私たちの乗ってきた船まで帰ってきていますよ。流石ですね。」
などと話しているジークフリート一行に、駆け寄ってくる者がいた。
ディートリヒ達である。
「殿下ーーーー!!ご無事でしたか!!」
「あなた!少し落ち着いて!」
「あわてんなよ!ディートリヒ!ジークフリート様は逃げやしねーって!」
どうやら、ジークフリート達を見送った後も、港にずっといたらしい。
ジークフリートは、呆れるとともに、嬉しくもあった。
(この世界での居場所は、自分自身の手で造っていかなきゃな!)
ジークフリート一行は、新たにジークルーネと、ヴァルムンクの宝剣と一体となった炎竜ヴァルカンを仲間に加えて凱旋した。
一行は、町長であるナターシャの邸宅に招かれ、ヴァルカン退治の経緯を聞かれ、無事に竜を退治した旨を聞かせた。
ナターシャは、住民を代表して礼を述べ、ジークフリート達のために、祝宴を開くこととなった。
「しかし、すごいな。こんな豪勢な料理どうやって用意したんだ?」
「町の皆からの、感謝の気持ちです。どうか受け取ってあげてください。」
「そいうことなら、遠慮はむしろ礼を失することになる!ライテ!ルーネ!付いて参れ!」
「待って下さい姉上。一度にこれほどの量は、食べきれません。」
「言っても無駄ですよ。ライテ姉さん。ああなったヒルデ姉さんは、とめられません。」
その、楽しげな様子に、ヴァルカンが不満の声を上げた。
『我も体さえあれば、一緒にご相伴に与れるのに、無念じゃーーーー!!!』
その声に閃くものがあったのか、ジークルーネがポンと手を打った。
そして、破壊の杖を剣に向けると、魔法を放った。
ボン!と気の抜ける音がして、煙が立った。
煙が晴れると、そこには赤いワンピースらしき服を着た少女が立っていた。
薄桃色の髪が膝まで届き、その額には、赤い宝玉があった。
要するに、ヴァルカン(グラム)を人間の姿に変えたのだ。
「さあ、これであなたも食事をとることができます。手伝ってくださいね。」
「流石は、我が花嫁じゃ!」
「花嫁ではなく、姉と思いなさい。あなたの面倒も見てあげます。」
「分かったぞ!お姉様!!」
ジークフリートは、隣にいたディートリヒに、疲れた様子で、話しかけた。
「おい・・・。俺の剣が大変なことになってるぞ・・・。」
「はははは・・・。」
一行の夜は、賑やかに更けていった。
ヴァルカンちゃん人間の身体を手に入れるの巻!あと、この章は、もう少し続きます。