竜核
ジークフリートの一撃は、確実にヴァルカンの脳髄を貫いた。
しかし、ヴァルカンはそれでもなお、凄まじい生命力で意識を保っていた。
『見事ダ・・・、ジークフリートヨ。コノ我ヲ倒シタ勇者ノ名、魂ニ刻モウ・・・。』
すでに、死を悟ったヴァルカンは、自らの終焉を受け入れた。
その巨大な体が、ゆっくりと倒れていく。
ジークフリートは、剣を抜き、離れようとした。
だが、なぜか剣が抜けないのだ。
不思議に思ったジークフリートだが、次の瞬間、驚くべきことが起こった。
剣が、強烈な深紅の光を発したのだ。
それと同時に、ヴァルカンの巨大な身体が、その色を失い、景色に溶け込むように消えていった。
足場になっていた、ヴァルカンの頭部から落されたジークフリートは、体勢を立て直して、着地した。
「一体、なにが起こった!?」
ジークフリートが、周辺を見渡すが、ヴァルカンの姿はどこにもなかった。
「主殿!剣を見るがよい!」
ブリュンヒルデに促され、ジークフリートは剣を顔の前に持ち上げた。
そこには、姿を変えた剣があった。
先程までの、鈍い灰色の剣ではなく、深紅に染め上げられた剣がそこにあった。
しかも、刀身と握りの間、ガードの部分に、赤い宝玉が嵌っていた。
ジークフリートが、その変容ぶりに驚いていると、突如として声が響いた。
『何だこれは!我は死んだのではなかったのか?』
宝玉が点滅し、やけに未熟な少女の声を発したのだ。
「まさか、ヴァルカンなのか?」
『いかにも!我はヴァルカンだが、汝はジークフリートであるな、これはどうなっているのだ?』
それは、ジークフリートがもっとも聞きたかったことだ。
その疑問に答えたのは、大賢神ミーミルの声であった。
『おそらく、剣が、ヴァルカンの魔力を取り込んだのだろう。その宝珠が、竜の心臓、竜核じゃよ。しかし、魂ごと取り込むとは、珍しいものを見せてもらったぞい。』
部屋に、備え付けられたスピーカーからの声である。
どうやら、戦いの様子を見守っていたのであろう、その声には喜びがあった。
「聞きたいことが一つあるのだが?」
ジークフリートは、恐る恐るヴァルカンに質問した。
『なんでも聞くがよい。勇者よ。それが勝者の権利だ。』
「お前、雌か?」
『その通りだが、なにか問題か?』
「しかも、声から察するに、そなた子供だな?」
ブリュンヒルデも、ヴァルカンに質問してきた。
『失礼な!我は齢二千歳を数える成竜だぞ!』
「子供だな!」
「子供ですね。」
『なにをー!!』
ブリュンヒルデと、シュベルトライテに決めつけられ、ヴァルカンの舌っ足らずな怒鳴り声が、響いた。
ジークフリートは、あまりといえばあまりの展開に、力なく呟いた。
「なんでやねん・・・。」
ヴァルカンさんではなく、ヴァルカンちゃんでした。幼女で、レズッ娘です。ジークフリートの明日はどっちだ!