竜の花嫁
あれほどの猛威を振るった炎竜ヴァルカンも、ジークフリートと二人の戦乙女の前に、満身創痍の状態であった。
斬りつけられた傷跡からは、血液が流れ出し、ブリュンヒルデに切り落とされた翼は、もはや空も自在に飛ぶことは出来ない。
しかし、それでもヴァルカンは立っていた。
それは、古代竜としての誇りだった。
『グググ・・・マサカ愚劣ナ人間ドモニ、コノヨウナ強者ガイタトハ!シカシ!コノ炎竜ヴァルカン、我ガ花嫁ノ前デ無様ナ戦イハ出来ン!!』
この言葉を聞いて、ジークフリートは驚いた。
「花嫁って、ジークルーネのことか?」
その名を聞き、ヴァルカンの体が震えた。
『ソウカ!我ガ花嫁ノ名ハ、ジークルーネト言ウノカ!』
その言葉と共に、ヴァルカンは突撃してきたが、明らかにその速度は半減していた。
それゆえ、ジークフリートは、その攻撃を、余裕をもって躱し、質問をぶつけた。
「ドラゴンのお前が、なぜ戦乙女の彼女を花嫁と呼ぶ?」
その質問に、ヴァルカンは震える体を、意志の力で支えつつ、笑いながら答えた。
『可笑シナ事ヲ聞ク人間ダ、マアイイ聞カセテヤル。カツテ神魔ノ大戦ノ折、魔神族ノ側ニ付イタ、我ラ古代竜ノ軍団ノ前ニ立チ塞ガッタノガ彼女ダ!我ハソノ強サニ戦慄スルト同時ニ、強ク惹カレタノダ。ソシテ、ソノ魔力ノ痕跡ヲ追ッテ、我ハココニ辿リツイタ。渡サンゾ!我ガ花嫁ハ!』
「愚かな竜よ!そのままここで果てるがよい!!」
吠えるヴァルカンに、止めを刺そうとしたブリュンヒルデを、ジークフリートが遮った。
「ヒルデ!俺に任せてくれ!」
「主殿!?」
ジークフリートは、そう言うと魔導装甲を完全に起動させた。
金色の輝きがジークフリートを包む。
「我が名は、ジークフリート!お前に、死を与えるものだ!」
金色の光の尾をひきながら、ヴァルカンの懐に、跳び込んだ。
(せめて、一撃で葬る!!)
それは、ヴァルカンの想いに対するジークフリートの礼儀であった。
『グオオオオオオオ!!』
対するヴァルカンもまた、全ての力を振り絞り、攻撃を繰り出した。
ドドオン!!
ヴァルカンの前足が、大地を穿つ。
しかし、そこにジークフリートは居なかった。
ヴァルカンは、頭上に気配を感じた。
ジークフリートが、跳躍したのだ。
そして、剣を逆手に持ち替えると、秘技を発動させた。
「刺突衝!!」
ズドン!!!
重い音が、鳴り響き、剣はヴァルカンの眉間に、突き立った。
流石のヴァルカンさんも、ここまで追い込まれては、逆転は無理でした。