時の塔
時の塔の内部は、不思議な空間であった。
いたる所に階段があり、迷宮のようになっていた。
しかし、
「広いな・・・。」
「おそらく、空間魔法の一種でしょう。試練の一環だと思いますが・・・。」
「どう進めばドラゴンの居る場所まで行けるか、一目瞭然だな!」
そう、ヴァルカンの進んだ後には、著しい破壊の跡が残されていたのである。
「この跡を辿れば、いいんだよな。」
「うむ!油断して寝ている内に、奴の懐に飛び込むとしよう!」
ジークフリートが、意気揚々と進もうとするブリュンヒルデに、続こうとした時だった。
「ようやくここまで辿り着いたかのう。青年よ。いや、ジークフリートと呼んだほうがよいかの?」
突如として声をかけられた一行は、素早く振り向いた。
「あ、あんたは!」
ジークフリートの前に、かつて導きの宝珠を託した老人がいた。
「ま、まさか!貴方様は!」
「大賢神、ミーミル様ではありませんか!」
ブリュンヒルデも、シュベルトライテも驚いた様子だったが、敵意を感じさせないその態度に、ジークフリートも警戒を緩めた。
「久方ぶりじゃのう、オーディンの娘らよ。しかし、ここでは落ち着いた話も出来ん。場所を変えるぞい。」
老人が、手に持った杖を振ると、辺りは一変した。
「な!?」
「落ち着かれるがよい、主殿。」
「ただの転移魔法です。」
女神二人は、落ち着いたものだった。
「ここは、時の塔の、頂上の部屋じゃ。ドラゴンに侵入されたのは、最下層じゃよ。」
などと、説明する老人の、言葉はジークフリートの耳には入らなかった。
なぜなら、そこには、この世界には、ありえない光景があったからだ。
電子機器と分かる機材が、ズラリと並び、巨大なモニターには、この世界の様々な場所が、映し出されていた。
そして、部屋の中心には、球体のホログラムがあり、そのホログラムの三方には、三人の女性が、目を閉じて浮いていた。
「あれは一体?」
疑問を口にしたジークフリートに答えたのは、老人だった。
「あれは、ノルンの三姉妹じゃよ。あそこで、世界樹ユグドラシルを制御しておるのじゃよ。」
そこまで語ると、老人は、ジークフリートに向きなおり、名を名乗った。
「ようこそジークフリートよ。ワシは、このミーミルの泉の主、大賢神ミーミルじゃ!」
ミーミル神と言えば、オーディン神に、未来を覗く力を与えた神である。
そして、力と引き換えに、オーディン神の片目を要求したことも有名な神だ。
ジークフリートは、この神が、なぜ今自分の前に現れたのか、解らなかった。
「さて、ジークフリートよ!これから話すことは、お主にとっても重要なことじゃ。心して聞くがよい!」
ドラゴンとの戦いと思いきや、導きの宝珠をジークフリートに渡した老人再登場、なにを語るつもりでしょうか?