出陣の朝
その夜、ミズガルズの貴族派の筆頭、ホグニ伯爵は、なぜ自分が死んだのかさえ分からぬまま、この世から消えた。
そして、ウルザブルンの人々は見た。
笑い声を上げながら、金色の粒子を纏った炎の竜を。
それは、ホグニ伯爵が持ち込んだ金貨であった。
「金は、火の属性を持つ竜にとって、自身の魔力を高めることができるアイテムだからな!高位の竜ほど、その保有する金の量は増大するのだ。あのレベルの竜ならば、どれほどになるかな?」
ジークフリートは、夜空を舞う竜を見ながら、ブリュンヒルデの話に、耳を傾けていた。
「先ほどの攻撃は、流星の吐息だな!エンシェントドラゴンの中でも、名のある竜しか使えぬ技だ。しかし、一度使うと、次の満月までは、使えぬほど消耗する技でもある。示威行為の意味もあったのだろうが、迂闊だったな。」
「唯一の懸念事項がなくなりましたね。姉上、この上は一刻も早く時の塔に乗り込み、火竜を倒してしまいましょう。」
「うむ!全ては明日の明朝だな!そうと決まれば、今日はさっさと就寝だ!主殿、行くぞ!」
「ええ!?」
ジークフリートは、首根っこを掴まれ、町長であるナターシャに与えられた宿屋に戻っていった。
ちなみに、男女別々である。
興奮冷めやらぬジークフリートであったが、これでも、歴戦の戦士である。
目を閉じると、すぐに眠りに落ちた。
翌朝、三人は、船の上にいた。
見送りは、ディートリヒ、アリシア、ハイメ、ナターシャの四人だけである。
大勢の見送りは、竜に勘付かれる恐れがあったからだ。
なおも心配そうにするディートリヒに、ジークフリート一行は、声をかけた。
「行ってくる。夜までには帰るから、心配しないでくれ。」
「大丈夫だ!フヴェルゲルミルの朝霧が、我らを隠してくれる!吉報を待つがよい!」
「油断は、禁物ですよ。姉上。」
その普段と変わらぬ姿に、安心したのか、ようやく、
「お待ちしております。ジークフリート様。女神様方も、お気をつけて。」
と言い、船の係留の綱を解いた。
ディートリヒ達は、ジークフリート一行が、見えなくなるまで、手を振っていた。
朝霧に包まれたフヴェルゲルミルの上で、一行が方角を把握出来たのは、オーディンの瞳のお陰である。
導きの宝珠は、その能力を発揮し、火竜に発見されることなく、中心の島まで、到達することが出来たのであった。
島に建てられた塔の巨大さに、ジークフリートは驚いた。
なるほど、あの巨大な竜が住みつく訳である。
塔に近づくにつれ、その入り口である門が、跡形もなく破壊されていることに気付いた。
「やはり、結界を貫かれていたようだな!しかし、結界は、未だ有効なようだ。主殿、グラムを翳されるとよい。それで、結界は解かれるだろう。」
「よし!」
パリイイイイイィィィィン!!
ジークフリートが、グラムを翳すとガラスの割れるような音が響いた。
「さあ!竜退治の始まりだ!」
ブリュンヒルデの声にジークフリートは頷くと、時の塔の門を潜った。
時の塔到着!これからが竜退治本番です!