死せる騎士
城壁は、攻城兵器や魔法によってボロボロとなり、正門の大扉は、破城鎚などで、無残に破壊され廃墟となっていた。
シグルドは、正門をくぐり街の中へと入って行った。
街の中に入ったシグルドを不思議な感覚が襲った。何故かは分かないが、懐かしいと感じたのである。
見たこともない町並み、建物は崩れ去り、雑草が生え完全な幽霊都市となったその風景を何故自分が懐かしと思うのか、シグルドには全く覚えがなかったのだ。
しかし、その霧だらけの情景の中に、人の形を取る影のようなものが見え始めた。
(これは少し厄介だな・・・)
シグルドがそう思ったのも無理はない。現れたのは、所謂亡霊と呼ばれるモンスターである。無念の想いを抱えて死んだ人間の想念が、形となりこの世に残り彷徨う存在である。
物理攻撃が主体のシグルドでは、攻撃を通すことは不可能である。
そのまま通り抜けるのが一番と考えたシグルドは、亡霊達を刺激しないように行動を始めた。
しかし、その行動はすぐに止められた。突如として、目の前に女の子の亡霊が現れたのである。
その女の子は、何故かシグルドにむかい花束を渡そうと差し出して来た。
シグルドは迷ったが、その花束を受け取ることにした。
花束に触れた瞬間であった。少女の霊は、花が咲いたような微笑みを浮かべ、光を発したかと思うと、その存在は消えて無くなっていた。
シグルドの手の中には、枯れて、ドライフラワーとなった花束が残されていた。
気付くと、シグルドの周囲は、亡霊の群れに囲まれたいた。
だが、その亡霊達も、シグルドに触れた瞬間、光となって消え失せるのだ。
全ての亡霊が消えた時、シグルドは自分が涙を流していることに気付いた。
シグルドは、ここにいた記憶は無い。ミズガルズでの思い出が、シグルドにとっての第二の人生の始まりであった。
なんとか、落ち着きを取り戻したシグルドは、この街がいかにして滅んだのか、昔読んだ文献の事を思い出した。
この街の王、剣王ジグムントは、魔人族の女を妻に迎えたばかりに、ミズガルズの中央正教会から、異端とされ、周辺の国々より、攻め滅ぼされたのだ。
いかに、剣において敵なしと言われた王でも、数の暴力には勝てず、忠勇無双の部下たちと共に、討ち死にしたと言うことだが、その後、占領もせず、各国が兵を退いたのには、訳があった。
石畳の間から雑草の生えた、中央の大道りを進んでいくと、王城が見えてきた。
そして・・・
「やはり、出たか・・・。」
そう呟いたシグルドの先、城門の前に、二体のスケルトンが立ち塞がっていた。
なおも進もうとするシグルドの行く手を、ガシャリ!とスケルトンの持つ槍が交錯し、防害した。
『何者か!』
『王の許可なく城に立ち入ることは、許されぬ!』
ボロボロの、致命傷と思われる場所に、穴の開いた魔導装甲を纏った二体のスケルトンからは、死者と思えぬほどの、鬼気が感じられた。
「悪いが、城の中に用があってね。」
そう言うと、シグルドは、鞘から剣を抜いた。
『愚かな!』
『我らと戦うというのか?僧侶でもない貴殿に我らが祓えると思われるか?』
スケルトンの一体は臨戦態勢に入ったが、もう一方は再び直立し質問してきた。
まるで生きた人間のままのような立ち振る舞いである。
「一人ずつでいいのか?なんなら、二人がかりでもいいぜ!」
これには、臨戦態勢にあるスケルトンが答えた。
『我らは、誇り高きヴァルムンクの騎士、貴殿が一人であるのに、二人ががりなどありえぬ!』
その言葉を聞いて、シグルドは認識を改めることにした。
(こいつら・・・いや、この二人は本物の騎士だ。)
ヒロインが出てこない。もう少しさきかな?