悪党
ジークフリート一行が、竜退治の一件を、町長のナターシャ以下ウルザブルンの住人たちから一任されたころ、ウルザブルンより、少し離れた場所にある、フォーバルという場所に、大勢の兵が集結していた。
このフォーバルという所は、貴族達の避暑地であり、治外法権が許された場所でもある。
しかし、季節は冬である。
よほどの用がない限り、これほどの者が集まるはずの無いのである。
その中にある、かがり火の焚かれた華美な邸宅の一つから、男の怒鳴り声が聞こえた。
「なに!失敗しただと!!」
「申し訳ありません!公爵様!でも、あいつら、めっぽう強い用心棒がいるみたいで・・・。」
「俺達も、命からがら逃げて来たんでさ!」
この、傭兵達に怒鳴っている男こそ、ホグニ公爵であった。
ミズガルズの王家の血筋にあたり、貴族派の筆頭でもあるこの男は、欲しいものは何でも手に入れて来た。
特に、女である。
ディートリヒの妻であるアリシアに、横恋慕し、傭兵を雇い隊商を皆殺しにして、浚うつもりだったのだ。
後は、野盗に襲われたことにして、全てを煙に巻くつもりであったが、その計画は、ブリュンヒルデ達に、いとも容易く、打ち砕かれてしまったのだ。
ホグニ公爵は、嘆息すると、傭兵達の後ろにいた私兵たちに、目配せした。
「ギャアアアア!!」
「な、何をす・・・グハァ!!」
私兵たちが、傭兵たちを始末する様を、ホグニ公爵は、冷めた瞳で見ていた。
「やはり、傭兵など使うのではなかった。金と装備を無駄にしただけだったな・・・。おい!外の者たちに、出撃の準備を急がせろ!!」
私兵たちは頷き、傭兵の死体を引きずって出ていった。
「くくく・・・待っていろよアリシア!必ずお前を私のモノにしてやるぞ!!」
ここまで来たのは、浚った後、すぐに、アリシアを自分のモノにするためであった。
傭兵たちが、失敗するとは思わなかったため、すでに我慢の限界であったのだ。
そこで、五百の私兵をもって、街を強襲することにしたのだった。
ウルザブルンの命運は、まさに風前の灯であった。
ジークフリート一行が居なければ、であるが。
しかし、その戦支度ともいえる様を、ジッと眺めている者がいた。
時の塔の頂上、にそれはいた。
千里先を見通す竜眼、いかなる武器も弾く竜麟、そして、千里を一夜にして駆ける翼。
時の塔に、住み着いたという火竜、その名は”炎竜ヴァルカン”と言った。
『愚昧ナル人間ドモヨ!我ト闘ウコトガ、ドレホド愚カナコトカ、身ヲ持ッテ知ルガイイ!!』
その軍勢が、自分に対して用意されたものだと思い込んだヴァルカンは、猛り狂って、飛び立った。
次回、勘違い野郎ども激突です。