立ち合い
ナターシャは、ジークフリート一行を、町長に与えられた邸宅に案内した。
隊商の持ちこんだ物資などは、アリシアに任せ、ディートリヒとハイメも四人に同行した。
ナターシャは、執務室に彼らを通してこう言った。
「にわかには信じられませんね。あなた方のような女性が、火竜を退治するなどとは。」
これに異論を唱えたのは、ハイメだった。
「待てよナターシャ!こちらにいるお二人は、俺達を襲った盗賊を、しかも、俺でもてこずる魔導装甲を着た浪人くずれの傭兵共百人程を、アッと言う間に倒しちまった凄腕だ!」
しかし、ナターシャも引かなかった。
「あたしは、街の責任者として、人々の安全を第一に考えなくてはならないの!あなたはいつも物事を大袈裟に言う癖があるでしょう!とても信じられないわ!」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ!?」
ナターシャは、壁に掛けられた槍を見てこう言った。
「私自身の腕で、貴方がたを試します!」
それを聞いて、ディートリヒとハイメはあわてたが、ジークフリート達はむしろ、自らの手で街を守ろうというナターシャのその姿勢に、感銘を受けた。
その挑戦を受けようとしたブリュンヒルデが、歩み出ようとしたそのとき、シュベルトライテが待ったを掛けた。
「姉上!その挑戦は、私が受けましょう。」
「よいのか?こういう立ち合いは、好きではないだろう?」
「いえ、町長殿には、我々の力を知ってもらうことが必要でしょう。それならば、私達の中で、最も弱い、私が相手をしたほうが、納得しやすいでしょう。」
その言葉に、ナターシャは、やや憤慨したようだった。
「では、こちらへ。」
と言い残すと、サッサと外に出てしまった。
ハイメが、恐縮しながら、シュベルトライテに、詫びて来た。
「申し訳ありません!シュベルトライテ様!あいつも悪気がある訳じゃなくて、その・・・。」
ハイメの様子に、シュベルトライテは、ニコリと微笑んで答えた。
「安心してください。ナターシャに怪我はさせません。」
玄関を出た路上で、ナターシャは待っていた。
槍をグルグル回し感触を確かめているようだったが、ジークフリート達と共に出てきたシュベルトライテが、眼前に立つと、槍を立てて告げた。
「これより、貴方達の腕前を見せてもらいます!竜に挑むほどの腕前を私達に見せられますか!?」
その声を聞き、街の住民たちが集まってきた。
ジークフリートは、なるほどと感心した。
住民の不安を取り除くことができ、更に相手の腕も試せるという一石二鳥の手法であったからだ。
シュベルトライテは、その声に答えた。
「いつでも、始めて下さっていいですよ?」
「では!行きます!!」
ナターシャが踏み込もうとしたその時である。
シュベルトライテが滑るように動いた。
ナターシャの槍が撥ね上げられ、自身の首筋に剣が当てられたのが分かったのは、全てが終わったあとであった。
住人達は、オオーと歓声を上げた。
「これで、分かっていただけましたか?」
シュベルトライテの圧勝であった。
ナターシャさん二十七歳、町長の任に就きながら未だ現役です。