湖畔の町
ハイメの話を聞いた後も、ディートリヒは、ジークフリートが火竜の退治に赴くことに反対していたが、ジークフリートの決意が固い事を知り、しぶしぶ諦めることにした。
そして、三日ほどで、一行は湖畔の町ウルザブルンに到達した。
ウルザブルンは、湖の上に建設された街である。
跳ね橋から入る以外は、船着き場から出入りする構造になっている。
ディートリヒの隊商は、街の者たちに、歓声と共に迎え入れられた。
というのも、火竜が出没するようになって以来、他の町の商人たちからの、物資が届かなくなっていたからだ。
そんな街の住人達の間から、一人の女性が、進み出た。
この街の町長であるナターシャと言う女性であった。
「ディートリヒ!アリシア!来てくれたのね!ありがとう!」
言うなり、ナターシャは二人に抱きついた。
二人は、ナターシャを受け止めた。
その表情には、親しいものに向ける、親愛の情が浮かんでいた。
三人を見ていたジークフリートに、ハイメが笑いながら説明した。
「実は、ナターシャの奴は、数年前までは、俺達と一緒に冒険者をしていましてな。実家のオヤジさんが、病気で倒れてから、街の町長の座を受け継いだんですわ。」
そんなハイメに、ナターシャは顔を向けると、開口一番に、こう言った。
「あら!居たのハイメ。あまりにも目立たないんで、目に入らなかったわ。」
「なっ!何だとこのじゃじゃ馬が!相変わらず周りに迷惑掛けてんだろうが!」
「なんですって!」
ジークフリートは、急に険悪な雰囲気ななったと思ったが、ふと思いついたことがあり、ディートリヒに尋ねた。
「ディートリヒ殿、あの二人ってもしかして・・・。」
「お察しの通りです。お互い素直になれず。顔を合わせる度に、あのよううな感じになるんです。」
「もう、十年になるかしらねぇ。早く結婚すればいいのに・・・。」
やや疲れた感じで、ディートリヒ夫妻は答えた。
そこへ、ブリュンヒルデが口を挟んだ。
「おそらく、ハイメの奴は、自分が結婚してしまえば、この隊商から離れなければならなくなる。それを避けるために、あえて自分の気持ちに蓋をしているのだろう。」
ディートリヒは、その言葉を聞き、なるほどと合点した。
「それは・・・。ハイメの奴・・・。」
「あなた・・・。」
そんな二人を置いて、ブリュンヒルデは、ナターシャに近づき交渉を始めた。
「ナターシャ殿!我らは、火竜を退治するため、幻の塔のある島に渡りたい。船を出してもらえないだろうか?」
その言葉に、街の者たちは、水を打ったように、静まった。
ようやく、火竜の棲む時の塔のある島に、行くことのできる街へ到着しました。