竜殺し
ジークフリートが、突然立ち上がり、叫んだのを、ディートリヒ夫妻は、ポカンと見上げた。
馬車の横を並走していたハイメが、ジークフリートのその姿を見て、ふと何かを思い出し、得心がいったという感じで話しかけた。
「そうだ、ホグニ公爵と言えば、ジークフリート様とクリムヒルト王女の仲を引き裂いた、貴族派の代表でしたな。」
ふと呟いたその声に反応したのは、ブリュンヒルデだった。
ディートリヒの馬車の後方につけた浮遊馬車の御者台から跳び上がり、見事、ジークフリートの横に着地した。
「今の話は、初耳だぞ!主殿!!」
先ほどのジークフリートが、かすむほどの勢いである。
これには、ジークフリートがあわてた。
「いずれ話すつもりだったんだよ、ヒルデ!」
「本当か!本当だな!!」
「本当だ!!それに、今はヒルデが一番大切だ!!」
そう言った後に、ふとジークフリートは、正気に返った。
恥ずかしさが込み上げてくる。
周りを見ると、皆恥ずかしそうに、視線を外していた。
「・・・ならば好いのだ。・・・許す。」
ブリュンヒルデは、照れながらも嬉しそうに答えた。
浮遊馬車の御者台に取り残されたシュベルトライテは、やれやれと首を振っていた。
その頬は、若干赤かったが。
ジークフリートは照れ隠しもあり、話を強引に戻すことにした。
「とにかく、あの粘着質な、馬鹿貴族が、簡単に諦める訳がない。何か手を考えないとな!」
「それについては、我々でなんとかしようと思っているのですが・・・。」
そこまで話した所で、ブリュンヒルデが、声を上げた。
「そういえば、ウルザブルンに現れた竜は、火竜だったな。」
ディートリヒは、質問の意味が、よく判らなかった。
しかし、女神の知恵には、人間の知らない知識もあると思い、質問に答えた。
「そうです。火竜です。ブリュンヒルデ様。」
「ならば、話は簡単だ!」
ブリュンヒルデの話を要訳するとこんな感じだった。
火竜は、自分の巣に、宝を貯め込む習性がある。
自分達は、ウルザブルンにあるという、時の塔を攻略しなければならない。
当然、火竜と戦わなければならない。
そして、勝利すれば宝が手に入る。
その宝を、ヴァルムンクの復興に役立てろと言うのである。
「だが、時の塔は、ノルンの力で守られてるのではなかったか?」
「おそらく、その竜はエンシェントドラゴンだろう。年経た竜のブレスは、結界を貫通するほどの威力があるからな!」
その話を聞き、ディートリヒは顔を青くした。
「そんな!ジークフリート様は、我らの希望!御身に何かあっては、故国復興どころではありませんぞ!」
しかし、護衛隊長ハイメの意見は違った。
「いいや!かのギンヌンガカプ防衛戦で、ジークフリート様は、ドラゴンを数十頭殺している。そして、ついた二つ名が竜殺しのシグルドだ!いけるかもしれねえぞ!」
ヴァルムンク復活を望む、仲間の誕生です。
そして、ジークフリートを袖にした女の名前が、ついに出ました。
王女様です!