忘れぬ想い
気が付くと、隊商の者達全てが、ジークフリートに対し、拝礼をしていた。
ジークフリートは、ブリュンヒルデに尋ねた。
「ディートリヒ殿が、ミーメの甥だと、なぜ知っているんだ。」
「この者は、かつて冒険者でな。ヴァルムンクの死霊騎士の話を聞き、自分達の手で昇天させるべく、帰ってきたことがあるのだ。その時、ミーメに諭され、彼等には定められた役割があると知らされたのだ。私は見ていた。
見ていることしかできなかった。」
ブリュンヒルデの瞳に、ありありと悲しみが浮かんだ。
「あの日、ヴァルムンクが失われた日の前日、ディートリヒとハイメが、私にヴァルムンクを救うよう祈りに来たのを覚えている。」
ブリュンヒルデの瞳が、まるで、母が我が子を見るようにディートリヒを見つめ、そして、微笑んだ。
「私が目覚めないのが判ると、二人で、グラムを引き抜こうとしたのも覚えている。柄に手が届かず、刃に直接手をかけていたな。あの時の傷、まだあるのではないか?」
ディートリヒの目に涙が溢れた。
そして、両の掌をブリュンヒルデに掲げた。
その、掌には、グラムによって刻まれた傷が残っていた。
「この傷跡は、我らの絆の証し!あの日誓った故国再建の想いは、いまだ、この胸に!」
ハイメも、傷を掲げ、男泣きしていた。
ブリュンヒルデは頷き、ジークフリートを仰ぎ見た。
ジークフリートは、その意に気付き、グラムを抜いてかざし、宣言した。
「我が名は、ジグムントの子ジークフリート!ヴァルムンクの復活は、必ず成し遂げる!!」
その声に、隊商の者たちは、雄たけびを上げた。
その夜は、酒盛りとなり、賑やかに過ぎていった。
翌朝、ジークフリートは、馬車の御者を務めるディートリヒの隣に座り、昨日逸れてしまった話の続きをしていた。
「それで、なんでわざわざ火竜の出るウルザブルンに、物資を届けようとしたんだ?」
「あの街の町長とは、長年の付き合いで、何度も御世話になっていますからね。困った時は、助け合うのが我々の流儀ですから。」
「昨日の賊共、あれは盗賊ではない。傭兵だ。なにか、心当たりは無いのか?」
その言葉に、ディートリヒは首を捻ったが、妻のアリシアは心当たりがあったようで、後部座席から、話に加わった。
「あなた、あの話が原因じゃ?」
その言葉に、ディートリヒは何か気付いたようであった。
「なにかあるのか?」
ジークフリートは、身を乗り出し話の続きを促した。
「恥ずかしながら・・・私の妻アリシアに目を付けた貴族が居まして・・・妾にしてやるから寄越せと。当然断りました。すると、必ず後悔させてやる!などと言っていましたね。」
「どこの貴族だ?」
「ミズガルズの大貴族、ホグニ公爵です。」
「・・・あんの腐れ貴族が!!」
ドラゴンは、まだ出ませんでした。残念!
そして、なぜかジークフリートの過去に、係る人物の名が・・・。