血縁
その日の晩餐は、恩人であるジークフリート達を迎え、いつもよりも豪勢なものとなった。
酒が振るまわれ、仕留めたばかりの鹿肉なども出された。
「気を使わせて申し訳ない。ディートリヒ殿。」
正直な話、これまで旅の炊事は、全てジークフリートがやってきた。
彼にとっては、この上ない報酬であった。
「気にいっていただけて、よかったです。ところで、皆様はやはり、ウルザブルンへ、竜退治に行くのですか?」
料理に、手を着けながら、ディートリヒは、ジークフリート一行の旅の目的を尋ねた。
「竜退治?一体なんのことですか?」
「御存じないのですか?ウルザブルンの幻の塔、そこに、竜が出るようになったのです。それも、恐るべき炎の竜が。」
ジークフリート一行が、竜退治を目的にしていないことに、隊商のものたちは、困惑を隠せないでいた。
あれほどの実力を見せ付けられたのである。
てっきり、竜退治に乗り出した冒険者だと思っていたらしい。
そこへ、護衛隊長のハイメが口を出した。
「おいおい!竜殺しのシグルドともあろう者が、それ以外に何があるってんだい?」
その言葉に、隊商の者たちは、驚いた。
ジークフリートは、またここにも、過去の自分を知る者がいたのだと天を仰ぐ羽目になったが、
「シグルド!ミズガルズの英雄のシグルド様ですか?」
なぜか、ディートリヒの声には僅かな険があった。
仕方なく、ジークフリートは自分の出自について、掻い摘んだ説明をした。
「俺の本名は、ジークフリートと言う。ヴァルムンクの生まれだ。それを知ったのは、つい最近だけどな。」
その名を聞いた、隊商の者たちは、皆一様に押し黙ってしまった。
その中で、ディートリヒは立ち上がり、ジークフリートの前に、片膝を付き尋ねた。
「では、貴方様は、ジグムント王の遺児、ジークフリート様であらせられるのではないですか?」
ジークフリートは驚き、立ち上がった。
「なぜ、そのことを知っている!」
ディートリヒは、やはりそうであったかと、思った。
そして、この神が与えた奇跡に、感謝を覚えた。
「やはりそうでしたか!その腰に差した宝剣グラムと、そちらにおられる女騎士殿を見た時、そうではないか思いました。」
ディートリヒは、ジークフリートの傍らに座るブリュンヒルデに尋ねた。
「貴方様は、もしや、封石の女神様では?」
その問いに、ブリュンヒルデは、胸を張って答えた。
「その通り!我が主殿は、ヴァルムンクの王位継承者、ジークフリートである!司祭ミーメが甥、ディートリヒよ!」
ディートリヒは、ジークフリートとブリュンヒルデに、深く頭を下げた。
「我々は、全員が、元はヴァルムンクの民でありました。このような所で、貴方様方にお会いできたのは、望外の喜びであります。」
ディートリヒは、元ヴァルムンクの民でした。
そして、ウルザブルンの火竜とは、以下、次回!!