血風
「くそっ!こいつら、普通の野盗じゃないぞ!!」
隊商の頭ディートリヒは、追い詰められていた。
「頭!こいつら、魔導装甲を使ってやがる!装備無しじゃ辛いぜ!!」
護衛隊長のハイメが、声をかけてきたが、その声に余裕はなかった。
盗賊が、魔導装甲を使うことなど、無いに等しいからだ。
隊商の隊員たちも、その道でならした者達であるが、いかんせん戦力に差があり過ぎた。
一人また一人と、賊の刃にかかるものが出てきた。
「あなた!このままじゃ!」
馬車の上から、援護の弓射を続ける、妻のアリシアからの声を聞き、ディートリヒは、荷を捨てて撤退することを、覚悟したその時である。
疾風が、駆け抜けた。
気が付くと、盗賊の集団の中に、二人の乙女がいた。
その身を鎧を纏い、背中合わせに立っている。
突如として現れた、彼女達に、最初は驚いていた盗賊たちも、相手が女、しかも極上の美女と判った瞬間、下卑た薄笑いを浮かべた。
「おいおい!獲物が自分から、飛び込んできたぞ!」
「「ギャハハハハハハハハハハ!!!」」
その中で、ブリュンヒルデは、シュベルトライテに話しかけた。
「下種どもに情けは無用だ!全て斬り捨てよ!」
「承知しました。姉上。」
「行くぞ!!」
二人が、同時に地を蹴った。
盗賊たちの笑い声が悲鳴に変わるには、さしたたる時間は掛からなかった。
二人の往く所、血風が舞った。
ブリュンヒルデが、片手剣を振り抜く度に、賊の首が宙を跳んだ。
シュベルトライテは、双剣で敵の攻撃を一切受けることなく、風のようにすり抜けていく。
通り過ぎた後には、急所を切り裂かれた者が、屍の山を築いていた。
突如として、援軍に現れた二人の乙女達のその桁違いの強さに、驚きと戸惑いを見せていた隊商の隊員達も、今が、反撃の好機と捉えた。
「今だ!一気に押し戻せ!!」
「「オオーーーー!!」」
形勢は、逆転した。
ジークフリートが到着したのは、この時である。
「誰!?」
馬車の者たちから、弓を向けられたが、両手を上げ敵意の無いことを示し、こう言った。
「助けに来た。まあ、もう大丈夫だろうがな。」
「あの二人は、あなたの仲間?」
「そういうことだな。」
その言葉で、馬車の者達は、弓の射線からジークフリートを外した。
すでに、盗賊は潰走し、隊商の者たちの勝鬨の声が聞こえてきた。
「流石の一言だな。」
ジークフリートの、視線の先には、返り血の一滴も浴びず、当然の如く勝利を収めた二人の戦乙女がいた。
二人の活躍により、主人公出番なし!