破神の槍
ジークフリートたちがフォールクヴァングを出発した翌朝、教皇エイルは、肌に絡みつく蒸し暑さに目を覚ました。
「この季節に、霧とは珍しい。」
バルコニーに出ると、辺りは霧に覆われていた。
フォールクヴァングは、平野にある都市である。
霧が出るということは、ほとんど無かった。
時折山から吹く風によって、フヴェルゲルミルから発生した霧が、ふもとまで下りて来ることはあるが、今日は、風もないのに濃い霧に包まれているのだ。
「そうか!!しまった!!!」
エイル教皇にしては、珍しく狼狽した声を上げた。
「誰か!誰かいませんか!」
「エイル猊下!」
「どうかなされましたか!?」
不寝番をしていた騎士達が、驚いて飛び込んできた。
「即刻、皆を招集するのです!大封印があぶない!!」
そう言われ驚いた騎士達であったが、それも一瞬、すぐに飛び出して行った。
「エイル猊下!何事です!?」
そのすぐあとにエルルーンが入ってきた。
彼女は、いつでも対応できるように、部屋は隣にあるのである。
「エルルーン、貴方は付いてきて下さい。大封印の間に行きます。」
「承知しました!」
二人は、地下にある大封印の間に急いだ。
約二十名の騎士が途中、合流した。
地下に降り立った全員が驚いた。
大封印の間に続く大扉が開放されていたからである。
「まさか!」
大封印の間に入った全員が見たものは、大結界の中に立つ一人の女であった。
「よく気付いた。だが遅い!!」
その女が持つ槍が、空中へ浮かび上がった。
「いけません!!」
エイル教皇が叫ぶが、間に合わない。
「貫け!ミストルティン!!」
槍が深紅に輝き、光の速さで打ち出された。
槍は容易く、大封印の封石を打ち砕いた。
「「ああっ!!」」
エイル教皇たちの、嘆きの声が響いた。
封石の破片から、ロキの魂の欠片を取り上げたヘルは、エイル教皇たちに、向きなおった。
「流石のオラクルの力も、我が霧の結界の前には、役に立つまい。自慢の目が霧に眩んでしまってはな。」
「貴方は、一体?」
「我が名は、夜の女神ヘル!用は済んだ。帰らせてもらおう。」
「おのれ!逃がすか!!」
エルルーンが、斬り込むが、ヘルは霧となって霧散した。
「惑わされてはなりません!」
エイル教皇が、扉の前を示したが、
『もう、遅い。』
その声を、残しヘルは、消え去った。
「クソオオオオオォォォ!!」
エルルーンの絶叫が、虚しく響くだけであった。
大封印破壊されてしまいました。次の話から、第三章です。