次なる行き先
「行ってしまわれましたね。エイル猊下。」
「ええ、そうですね。エルルーン。」
二人は、セスルームニル大神殿の最上階のバルコニーから、三人の旅だった方向を見ていた。
「彼らがいる限り、この世界にも、望みはあります。彼らに大地母神の御加護があらんことを。」
「いつか、共に闘う日が、来るのですね。エイル猊下。」
「ええ、間違いなく・・・。」
エイル教皇の決意に満ちた表情が全てを語っていた。
ジークフリート一行は、新たにシュベルトライテを加え、旅立った。
しかも、移動手段まで与えられた。
馬二頭が引く浮遊馬車である。
特殊な浮遊鉱石、マルデルの涙という、フォールクヴァングの特産品であるその石を馬車の底に取り付けたもので、重量制限はあるものの、人間が、十人は楽に乗れる優れものである。
ジークフリートも、流石にただでは受け取れないと思い、寄付と称して有り金の半分は、フォールクヴァングに置いてきたのだった。
人一人が、一生遊んで暮らせるだけの額であったが、ジークフリートは、それでも安いと感じていた。
その理由は、主に、後部座席に乗った二人の女神の恰好である。
元が良いだけに、どんな服を着させても、その出自の気高さは隠せないが、薔薇十字聖騎士団の乙女達の三日をかけたショッピングと、コーディネイトのおかげで、美人の町娘といった感じにまで落ち着いた装いに収まっていた。
(こういうのは、門外漢だからな。エルルーン達には、助けられたな。)
などと、思っているジークフリートの後ろで、ブリュンヒルデとシュベルトライテは、話し合っていた。
「では、姉上は大封印をその目で見たのですね。」
「うむ!ドルイドの術式の大結界の中心に、据えられてあった。あの結界に、邪悪なものは、決して入れぬ。」
「私が、封石にいれられた後に造られたものですね。大封印自体は見たことがありましたが・・・。」
「どちらにせよ、あそこに大封印がある限り魔神族は手出しできまい。」
大封印、死の神であるロキを封印した遺物。
オーディン神が、命を賭して施した封印が、易々と解かれるはずはない。
そう知りつつも、ジークフリートの胸中には、一抹の不安があった。
そんなジークフリートに、ブリュンヒルデは尋ねた。
「それで、次なる行き先はどこかな?主殿。」
「天空の瞳によると、エーリヴァーガルの源流、フヴェルゲルミルの湖にある幻の塔ということになるが・・・。」
ブリュンヒルデは、クスリと微笑んだ。
「あそこにあるのは、時の塔だ。主殿。」
次なる試練は、湖にある塔であります。
しかし、まだ次章ではありません。




