既視感
二人の試合は、お互いに隙を窺い合う、静かなものであった。
ジークフリートは、シュベルトライテと対峙しながら、不思議な感覚に襲われた。
何故かは分からないが、初めて闘うという感じがしなかったのだ。
お互いの拮抗を崩したのは、シュベルトライテであった。
彼女は、摺り足で間合いを詰めると、舞うようにジークフリートに襲いかかった。
シュベルトライテの双剣が、間断なく振るわれる。
その回転は、緩急を織り交ぜた、達人の技であった。
すでに、薔薇十字聖騎士団の乙女たちでは、目で追うことでさえ不可能になっていた。
しかし、ジークフリートは、その猛攻を凌いでいた。
逸らし、いなし、弾く、二人の攻防はまさに、至高の武の激突であった。
「クッ!!」
まさか、ここまで自らの技が、受け流されると思わなかったシュベルトライテは、悔しさを滲みださせた。
途切れることのない攻撃を捌きつつ、ジークフリートは、違和感の正体に気付いた。
(ヒルデだ!ヒルデの打ち込みに、そっくりなんだ!いや、違う!ヒルデがシュベルトライテの技を模倣していたんだ!この時のために!!)
特訓の間、嫌というほど叩きこまれたその剣筋は、シュベルトライテの技、そのものだったのだ。
(本当に、敵わないな。本気で惚れちまいそうだ。)
ブリュンヒルデの、先見の明に、舌を巻きながら、ジークフリートは、防御に徹した。
(このままでは、埒があきません!)
そう思ったシュベルトライテは、勝負に打って出た。
「剣舞陣!!」
シュベルトライテの速度が、一気に跳ね上がった。
しかも、残像が現れ、まるで何人ものシュベルトライテがいるようである。
「なんと!」
「凄い!流石は剣の女神!!」
薔薇十字聖騎士団の乙女たちが、驚愕の声を上げるが、更に驚くべきことが起こった。
「音速撃!!」
ジークフリートの剣が高速で打ち出され、その全ての斬撃を受けきったのだ。
「馬鹿な!!」
これには流石に、シュベルトライテも驚いた。
そして、それは僅かな隙となった。
達人同士の剣の勝負において、腕が互角ならばその隙は致命的ともいえた。
双剣が、左右に弾かれ、シュベルトライテの首筋に、グラムがピタリと当てられた。
「勝負あり!!勝者ジークフリート様!!」
エルルーンの勝利を宣告する声が、響いた。
一瞬の沈黙の後、練兵場は、薔薇十字聖騎士団の乙女たちの喝采で爆発した。
ついに、王道の技名が出てしまった。ちなみに、ジークフリートの音速撃は、ジグムント王の時も使っていました。