英雄シグルド
「申し遅れました。私は、薔薇十字聖騎士団第一師団長エルルーン、我らがオラクルより、お迎えに上がるように仰せつかりました。しかし・・・。」
エルルーンと名乗った女騎士は、スッと顔を上げジークフリートを見てこう続けた。
「私の思い違いでなければ、そちらに居られるのは、ミズガルズ親衛騎士団団長シグルド殿ではありませんか?」
「私を御存じか?」
エルルーンは頷いた。
「かつて、ギンヌンガカプ防衛戦のおり、何度も命を救われました。・・・なぜ偽名など使うのです?脱走兵として囚われるのを恐れてのことですか・・・。」
ジークフリートは驚いた。
自分が、国を捨てる原因になったあの戦いで、この女騎士と出会っていたのである。
「話せば長い・・・。しかし、私の本名はジークフリートだ。」
ジークフリートは、エルルーンの眼を真っ直ぐ見つめた。
エルルーンは、その瞳に、嘘は無いと確信した。
そこへ、ブリュンヒルデが口を挟んだ。
「随分と熱心に見つめ合うではないか、主殿?」
エルルーンは、急いでジークフリートから目を逸らした。
「エルルーンとやら、主殿は、ヴァルムンクの王位継承者だ。無礼は許さんぞ!」
その言葉に、再びジークフリートを見る羽目になったが。
「本当のことだ。この剣が、ヴァルムンクの宝剣、グラムだ。」
ジークフリートは、鞘に納めたままのグラムをぽんと叩いた。
そして、隣にいるブリュンヒルデを見て言った。
「で、ここにいるコイツが、ヴァルムンクに封印されてた女神、ブリュンヒルデだ。」
エルルーンの眼が、更に大きく見開かれた。
その様子に、ブリュンヒルデは、クククと含み笑いをしながら言った。
「我らがここに来た理由は、シュベルトライテの封印を解くためだ騎士殿。最も、我らの来訪も、その理由もオラクルである教皇エイルは、全て御見通しだろうがな。」
エルルーンは、少し考えて答えた。
「その通りです。お時間をとらせました。セスルームニル大神殿までご案内いたします。」
三人は、座っていたソファーから立ち上がり大神殿へ向け歩き出した。
少しずつ、ジークフリートの過去が明らかとなって行きます。