導きの宝珠
それはシグルドがミズガルズを飛び出してから、数日後の話である。
シグルドは、別れ際に見た女性の悲しみに打ちひしがれた顔が忘れる事が出来ず、場末の安酒場でヤケ酒を喰らっていた時の話であった。
「お若いの!随分あれておるのう。」
酒場の端の席で、ヤケ酒を飲んでいたシグルドに、突如、話しかけてきた老人がいた。
若草色のローブに身を包んだ、なんとも人懐こい好々爺であった。
「なんだよ爺さん、酒をたかりたいんなら好きなだけ飲みなよ!金ならあるぜ!!」
そういってシグルドは、腰の鞄から金貨を大量に取り出して見せた。
周りの客たちが騒ぎ、中には危険な雰囲気をチラつかせる者もいた。
しかし、その空気に気付いたシグルドは、内心ほくそ笑んでいた。これで、心おきなく鬱憤を晴らすことが出来る。その為に、敢えて見せびらかすように金貨をバラ撒いて見せたのだ。しかし・・・。
「やはり魔導鞄じゃったか。しかもその腰の剣についとる宝石、魔導装甲の触媒じゃの?」
その声を聞きつけ、客の中にいた、彼に目をつけていた者達は焦る。
魔導装甲とは、錬金の魔法で造られた特殊な鎧のことで、装者の潜在能力を引き出して限界以上の力を発揮させることを可能とし、更に付加された特殊機能であらゆる技能を装者に与えることが出来る、正に万能の鎧の事である。
その能力は、千差万別だが、触媒に収納されて、持ち運びを自由に出来る機能を付け加えられているということは、高位の錬金術師が、その製作に関わっているということ。それはつまり、持ち主の実力に比例してくるのだ。
持ち主の意思次第で、鎧の着脱が可能になるこの技術は、国家そのものが管理運営をしていて、容易に一般市民の手に渡ることはないのだ。
それを受領される程の使い手となれば、実力の程は言うまでもあるまい。
酒場の中に満ちていた危険な空気は、一気に霧散して消えた。
「余計なことをする爺さんだな・・・」
シグルドは、怒りのぶつけ所を失い、迷惑そうに言った。
「フォフォフォ・・・あんなゴロツキ共など相手にするまでもあるまい」
そう言うと老人は、懐から小さな皮の袋を出してこう言った。
「もしも、お前さんが、強き者との戦いを望むのというのなら、これの導きにしたがうがよかろう」
紐解かれた袋から現れたのは、眩い水色の光を放つ宝珠であった。
「これは導きの宝珠と言われている物でな。道に迷った者に、進むべき真の道を照らす助けとなると伝承にある。これをそなたにやろう」
ジークフリートは怪訝そうに、目の前の老人を見た。
「なんで、見ず知らずのこの俺に爺さんがそんなものをくれるんだ?」
老人は、ホッホッと笑うと、こう続けた。
「道に迷った青年に、道を示してやろうという年長者のお節介とでも思うてくれて構わんぞい。さあ手にとって見せい。そして、光の指す方へと進むのじゃ。それがお前さんの運命を導くじゃろう」
未だ、胡散臭いと思っていたシグルドであったが、騙されたとしても、どうせ行くあてのない旅である。
意を決して、シグルドは宝玉に手を伸ばした。シグルドの手が触れた瞬間、宝玉から眩い光が溢れだし、酒場の中を閃光で満たした。
がんばっていきましょう!!!