魔神の血
ジークフリートの予感は、見事に的中した。
絶世の美女であるブリュンヒルデが、肌寒いこの季節に、軽装で肌を晒して歩いているのである。
彼女狙いの野盗が、面白いように釣れた。
どの野盗たちも、開口一番にこういうのだ。
「その女を置いていけ!」
察しの悪いジークフリートにも、流石に分かった。
「ヒルデ!俺の相手を釣るために、その格好をするのはよせ!」
「ふむ・・・流石にバレたか。」
ブリュンヒルデは、特訓とやらのために、自分の容姿を利用したのだ。
野盗たちは、斬られ損である。
「仕方がなかった・・・主殿が、真の実力を発揮できるようになるためには、相手が必要だと思ったが、たかが盗賊では、肩慣らしにもならんな。」
「真の実力だって?」
ジークフリートには、覚えがなかった。
「ジグムントを倒した時、使ったアレだ。知らなかったのか?」
「あの時は、無我夢中だったからな・・・アレと言われても、分からん。」
「髪が銀髪になり、眼が赤く染まっていたろう。アレは、魔神族の血の発動だ。主殿の魔導装甲は、既に死んでいた。ジグムントを倒した最後の一撃は、主殿の力のみで成し遂げたものだぞ。」
ジークフリートは、驚いた。
確かに、自分の片親が、魔神族だということを、ジグムント王から聞いていた。
たしか、ヘカーティアと言っていたはずだ。
それが母の名、そして最後の一太刀を引き出したのが、その血によるものだとは、思いもしなかった。
しかも、髪は銀髪、眼は深紅に染まっていたらしい。
(なんだそれ?ピンチに陥った時に、力が目覚めるなんて、どこのヒーローだよ・・・あ!俺は今ジークフリートだったんだ!!・・・でも、ありえねー・・・。)
一つ気になったことがあった。
「ヒルデ、封石の中にいた時、意識はあったのか?」
「あったぞ!聖堂に来る者たちから、いろいろな知識も得ている。一般常識程度なら、バッチリだ。」
ジークフリートは、ゲンナリした。
「要らん苦労だった・・・。(泣)」
ヒーローは、ピンチに陥った時、真の実力が発揮されるものです。