ヒルデガルドの覚醒
【前回の別視点となります】
二人の戦いが始まってすぐ、ヤールンサクサは、己の掌中に携えたヒルデガルドの魂の宝玉が、熱く脈動したことに気付いた。
(そうだろうとも、我等は戦乙女。これほどの心躍る戦いに、反応せぬ訳はない。しかも、その内の一人は其方の愛してやまない一人娘なのだからな)
今や、闇に包まれ弱々しい光を放っていた宝玉の中心からは、赤く激しい光が、その闇を吹き飛ばさんと、その輝きを増していた。
ヤールンサクサは、宝玉となったヒルデガルドに、二人の戦いが良く見えるよう掲げ持った。
一方、リンドブルムは、己が渾身の一撃が、ゲルヒルデに軽くあしらわれたことに、内心で苦渋を噛みしめていた。
(やはり雷撃は効果なしか!解っていたが、流石は闘士達の成長を見守るとされる我がヴィーグリーズの守護女神!!)
引き寄せた雷鳴の斧槍を、再び繰り出すも、その一撃はいなされ、鋭い反撃が返ってくる。
「クウゥ!!」
「油断は禁物っスよ!」
連撃へ繋ごうとするゲルヒルデの猛攻を、リンドブルムは力ずくで引き剥がした。
(ならば!!)
「『我が手に勝利を!!勝者の力!!』」
瞬時に、赤い輝きを放つ光の翼を展開し、空に舞うリンドブルム。
「ならこっちも!!『勇気よ奮い立て!!勇者の力!!』」
それを追うように、ゲルヒルデも淡い緑の光の翼を纏い、恐ろしい速度で上昇していく。
再び、展開される剣戟の応酬。
「『雷撃刃!!』」
リンドブルムは斧槍の刀身に展開される電刃で、一回り巨大になった刃を、体を回転させながらゲルヒルデに叩き付ける。
「チョイサー!!」
ゲルヒルデは、その一撃を最小限の動きで避けて見せた。
「『疾風閃!!』」
反撃は、風を纏った一撃である。
辛うじて躱すリンドブルムであったが、その衝撃波の影響で体勢が崩れてしまう。
(クッ!!空中戦でも、まだ上をいかれるか!!だが、今日までの修練を無駄にするつもりはない!!)
崩れたままの体勢に逆らわず、地上へと降下するリンドブルム。
ゲルヒルデも、それに追従し、二人は錐揉みしながら落下して行く。
「まだまだぁ!!」
「うおっス!?」
地上すれすれで繰り出した一撃が、ゲルヒルデを掠める。
ズン!!
速度を殺せなかった分、着地による衝撃がリンドブルムを襲うが、ゲルヒルデにようやく一撃を入れられた高揚感が勝った。
実の所、リンドブルムがゲルヒルデに勝ったことは、一度としてない。
修行中は、何度、その身を勇気の槍で貫かれたか判らない。
故に、知らずリンドブルムの顔には笑みが浮かんでいた。
「少しは、出来るようになったっスね。けど、これで満足されては困るっス」
ゲルヒルデも、その顔に笑みを浮かべるが、その闘気は、凪いだ湖面のように静かであった。
「ここからが、本番っス!『神気発剄!!』」
ゲルヒルデが、その身に秘めた神通力を発動させる。
『神武連撃!!』
洗練された連撃が、リンドブルムを襲う。
(明鏡止水!!)
これに、リンドブルムは、会得した境地を使用し応戦する。
(受け流してみせる!!)
雷鳴の斧槍と勇気の槍が噛み合い、激突し、絡み合う。
何とか受けきり、押し合いとなるも、次の一瞬。
バシィッ!!
リンドブルムの気が緩んだ所を、ゲルヒルデの蹴りがを吹き飛ばす。
「グゥッ!!」
何とか立ち上がるが、ここまで全ての面で上をいかれては打つ手がなかった。
「動きが鈍くなってきたっスよ。それとも、もう限界っスか?リンちゃん」
口惜しさが滲みだして、渋面を晒すリンドブルム。
「ク・・・これしき・・・!」
他の者から見ても、勝負は着いたかに見えた。
だが、その瞬間、ヤールンサクサの持つ宝玉が、完全に闇を吹き飛ばし、その輝きが人の姿をとった。
「目覚めたか。ヒルデガルド」
ヤールンサクサの喜びに満ちた声に、その人影は答えた。
『お久しぶりです母上。しかし、今は再会を喜ぶ時ではありますまい』
ヒルデガルドの幻影は、リンドブルムに向き直ると、その声を響かせた。
『落ち着いて立て直せ!!其方なら出来る!!』
かつて、死によって引き裂かれた愛娘との再会は、叱咤激励の言葉となった。
という訳で、前回の別視点となりました。
お母様復活!!リンドブルムとゲルヒルデの戦いは、いよいよ決着となります!
以下次回!!