リンドブルムの挑戦
迅雷と化したリンドブルムと、疾風と成ったゲルヒルデが決闘広場の中央で激突すると、閃光と衝撃波が爆発した。
光が収まると、既に二人の姿はそこには無い。剣戟の音は上空から響いてくる。
互いの武器を合わせた瞬間、戦乙女の能力を開放し、空中戦に移行したようだ。
ジークフリートは、改めて二人が常人では成し得ない領域に踏み込んだ戦士であると実感した。
最も、ゲルヒルデは最初から女神であり、ブリュンヒルデの姉妹ということもあって、すんなりと受け入れられたが、リンドブルムは元々、人間である。
ヴィーグリーズの紅の戦姫と呼ばれていても、その実力は、まだ人間の範疇にあったが。
今や、自国の女神とぶつかりあっても、互角に渡り合う程の実力者になったその成長速度は、ジークフリートをして驚嘆せずにはいられなかった。
両者の得物は、互いに長物である。
しかも、刃の部分だけではなく、柄の部分にいたるまで金属で造られた武器である。
重量は、約二十キロといったところであるが、その武器を、神鎧甲や、魔導装甲の補助があるとはいえ、まるで木の枝を振り回すように扱う二人の凄さは、正に超級の戦士であることの証明である。
しかし、その容姿は、筋骨隆々の厳つい戦士ではなく、花も恥じらうような絶世の美女と来たもんだ。
(つくづく異世界だよな。魔法による身体強化、更に、闘気によって潜在能力を全開に引き出すことが出来るとはいえ・・・)
流星と成った二人の戦乙女は激突と離脱を繰り返しながら、地上へと降下して来た。
着地した瞬間、再び二人は武器を交える。
二人は共に、笑みをその顔にうかべていた。
(脳筋にも程があるでしょ!!)
武神でもあるヘイムダルに挑んだ自分のことは棚に上げ、ジークフリートは、心の中で絶叫した。
『流石は、ガルガンチュアの娘。なかなかにやる!』
一方、ジグムント王は、息子の婚約者の実力に、いたく感心している様子である。
『すげえ嫁さん貰っちまったな!オイ!尻に敷かれちまうんじゃねえの?』
「うるさいよ!!」
レギンの方は、目を白黒させながら、二人の戦いぶりに見入っていた。
ジークフリートの突っ込みも聞こえていない様子である。
「しかし、この戦い。ゲルヒルデが優勢だ」
ブリュンヒルデの冷静な声に、ジークフリートは振り返った。
「見るがよい。主殿」
ブリュンヒルデに促され、視線を二人に戻すと、ジークフリートは二人の表情を見て納得した。
二人の顔が対照的であったからだ。
リンドブルムが、何かに耐えるように歯を食いしばっているのに対し、ゲルヒルデはまだまだ余裕があるかのように先程の笑顔のままである。
「ここにきて、地力の差が出て来たな」
「地力の差?」
ジークフリートの質問に、ブリュンヒルデは、うむと頷きこう続けた。
「ゲルヒルデは、生まれながらにしての女神だ。それに対してリンドブルムは半神、その魔力量には絶対的な差がある。この差を埋めるためには何が必要だと思う?」
「神通力の獲得か!?」
ジークフリートは、自身がヘイムダルに勝利したときのことを思い出した。
人を超えたる神に拮抗する方法の一つ、神の血を引くものにだけ可能な方法である。
ブリュンヒルデは頷くと、手数の少なくなったリンドブルムを見つめた。
「死中に活を求めねば、リンドブルムに勝利は無い」
ブリュンヒルデがそう言った瞬間、武器の押し合いをしていたゲルヒルデの上段蹴りがリンドブルムの側頭部を襲った。
吹っ飛ぶリンドブルム、だが、ゲルヒルデは追撃せず、その場に立ったままである。
「動きが鈍くなってきたっスよ。それとも、もう限界っスか?リンちゃん」
ゲルヒルデの声を聞きながら、頭部を襲う痛みと、揺れる視界に苦労しながら、リンドブルムは重くなった体を、雷鳴の斧槍に預けながら何とか立ち上がった。
「ク・・・これしき・・・!」
起き上がりはしたものの、未だダメージの残る体は、魔力を行き渡らせることが出来ない。
頭に貰った蹴りの痛みが、精神の集中を阻害しているのだ。
しかし、その時である。
『落ち着いて立て直せ!!其方なら出来る!!』
聞いたこともない女性の声が、リンドブルムの耳朶を叩いた。
いや、それはどこか懐かしさを感じさせる声であった。
朦朧とする意識を、ヤールンサクサの方へ向けたリンドブルムが見たものは、ヤールンサクサの持つ宝玉の上方に浮かび上がった、女性の上半身の姿であった。
リンドブルム劣勢!
その時現れた謎の女性の声は誰のものか?
お判りでしょうが、以下次回!!