決闘広場
男臭く笑う養父の姿に、ジークフリートは何とも言えない気持ちになった。
かつて、遠征から帰還したジークフリートを迎えたのは、物言わぬ骸と化した養父の姿であった。
養父の死に気が付いた隣人が、村の司祭に願い、死体を綺麗なまま保存していてくれなければ、葬式も出来なかったであろう。
あの時は、レギンの死体に取り縋って声をあげて泣き崩れた程であったのだが、生前以上に元気そうなレギンを見て思ったことは一つであった。
(・・・色々と台無しだな)
いつも、この調子で振り回してくれた養父が再び目の前にいる。
別れも言えなかった後悔も、どこかに吹き飛んでしまっていた。
「で、俺の顔でも見に来たのかよ?」
そう問いかけるジークフリートに、レギンは何かを思い出したかのように腰の魔法鞄から、拳大の宝珠を取り出した。
『そうだった!俺はこれを届けに来たんだった!』
その宝珠は、中心部に光が灯っており、その周辺を黒い闇が覆っていた。
レギンは、その宝珠をヤールンサクサの前に持って行くと、跪いて捧げ持った。
『ヤールンサクサ様、ご用命のものをお持ちしました』
「うむ!ご苦労であった」
ヤールンサクサは、壊れ物を扱うように、その宝珠を受け取った。
「親父、あれは一体何なんだ?」
ジークフリートに尋ねられたレギンは、立ち上がりながら答えた。
『あれは、ある御方の魂だ。ヴァルハラ神殿の本殿、魂の回廊から持ってくるようにと、ヤールンサクサ様に命じられてな。俺とお前に再会させてやろうという温情もあったんだろうな』
「そうか・・・」
宝珠を持ったまま、リンドブルムの方へ行くヤールンサクサの後ろ姿に、ジークフリートは感謝を述べた。
「ありがとうございます!ヤールンサクサ様!」
「気にすることではないよ、勇者殿。どちらにせよ、誰かに持って来て貰わねばならぬものであったからな」
片手を、軽く上げて答えるヤールンサクサに、ジークフリートは軽く頭を下げた。
ヤールンサクサは、リンドブルムの顔の前にその宝珠を掲げ、悲しげに告げた。
「リンドブルム、心して聞いてほしい。これが貴女の母であるヒルデガルドの魂だ」
「ええっ!?」
リンドブルムは、思わず、ヤールンサクサの持つ宝珠を覗き込んだ。
「宝珠の中心部の光を覆っている闇が見えるだろう?これは、生前の後悔が、負の力として理性を飲み込まんとしているのだ。この闇を浄化するために、魂の回廊に収められていた訳だが・・・」
そこまで言うと、ヤールンサクサは、ゲルヒルデに視線を移す。
「この闇は、幼いリンドブルムを置いて、死んでしまった無念そのものだ。故に、その無念を晴らすには、娘の成長を見せるのが一番だ。そうは思わんか?ゲルヒルデ」
「その上で、魔導神姫の英霊とする訳っスか?それは、名案っスね!」
ゲルヒルデが、その手に持つ勇気の槍を一振りする。
「まあ、あたしがグラムヘイズについて来たのは、それが目的でもあるんスけどね」
その一言と共に、ゲルヒルデから神気が立ち昇る。
「決闘広場を展開するッス!」
ゲルヒルデの勇気の槍の石突が、フェンサリルの床を打つと、そこに魔法陣が展開される。
その魔法陣は、ジークフリート達も効果範囲に入れると、一瞬で周辺の景色が変わった。
『ここは、不死の兵士の修練場。決闘広場だ』
ジグムント王が淡々と説明する。
そこは、空に浮かぶ円形の武舞台の上である。
「フェンサリルの中だった筈なのに・・・」
『ヴァルハラの者であるなら、誰であろうと、使用することが出来る。どうやら、戦乙女の方々も、使用することが出来るようだな』
しかし、それを今なぜ展開するのか?
それは、ゲルヒルデの次の発言で明らかとなった。
「今から、リンちゃんの卒業試験を始めるッスよ!魔導神姫を使用することの出来る最低限度のレベルは、神技を会得している事っスからね」
タングニョーストでの旅の間、リンドブルムはゲルヒルデに槍術を伝授していた。
あれは、このためであったのだと、ジークフリートは気付いた。
「さあ、リンちゃん!!準備ができ次第始めるッスよ!!」
既に、闘る気満々のゲルヒルデの声が、決闘広場に響き渡った。
展開が、急ですね!
いきなり、リンドブルムは、ゲルヒルデと対決です!
以下次回!!




