もう一人の父
ジークフリートは、グラズヘイムに入ってからというもの、いつかこの時が来るのではないかと期待していた。
しかし、いざ実の父に再会してみると、何を話していいか分からなかった。
今では、この世界に転生してからその記憶を失ってしまうまでに何があったか知っている。常に王として雄大であり、父として惜しみない愛情を注いでくれた偉大なる父、ジグムント。
まず礼を述べるべきか、それとも、一度目の邂逅の時、何故真実を教えてくれなかったのかとなじるべきか、頭の中がぐちゃぐちゃになって思考がまとまらない。
結局、口をついて出たのは、
「父上・・・」
の一言であった。
『せっかくの再会にそれだけか?このバカ息子が!』
ジグムント王の発言ではない。
その背後から、現れた別の不死の兵士の声であった。
信じられない声を聞いた、そんな表情を浮かべてその不死の兵士の顔を見るジークフリート。
ただならぬ様子に、状況を見守るブリュンヒルデ達の耳に飛び込んできたのは、こんな言葉であった。
「お、親父!?親父なのか!?」
『実の御父上であらせられるジグムント王の前だぞ。少し落ち着け!』
二人の様子に、ジグムント王は微笑みを浮かべる。
「ちょ、ちょっと待ってほしい!一体どういうことなのだ。ジークフリート?」
慌てて尋ねてきたのは、リンドブルムである。
話についていけているのは、ジークフリート本人のみである。
「そうだな、まずは互いに紹介するべきだな・・・」
ジークフリートは、ブリュンヒルデ達の前に立つと、ジグムント王と、後からやって来た不死の兵士の紹介を始めた。
「ブリュンヒルデは知っているだろうが、この方が、ヴァルムンクの剣王と謳われたジグムント王だ。そしてもう一人は、俺の育ての親、レギンだ。まさか、親父もヴァルハラに来ていたとは知らなかったが・・・」
『俺の生涯は、寝台の上で終わったんだが、何が評価されたか、不死の戦士の一人として、ヴァルハラに呼ばれたんだよ、こうしてお前に再会できたことには感謝するべきなんだろうな』
ジークフリートの顔が後悔で歪む。
「俺が、遠征中に勝手にくたばりやがって、何でミズガルズが仇だって教えてくれなかったんだよ!」
『お前は、ご両親を失ったショックで、記憶を失っていたからな。人生をやりなおすのにはちょうどいいと思って教えなかったんだが、まさか病に倒れるとは、俺も思わなかったわ!ワハハハハハ!』
「遺書くらい残してくれても良かったろうが!」
『誰に読まれるかもしれないのにか?そんな危険は冒せなかった。せっかく、ミズガルズの懐に飛び込んで追っ手を躱したのに』
「御蔭で、俺は知らずに仇に仕えることになったんだぞ・・・」
溜息をつくジークフリート、そして、なるほどと納得する面々。
気を取り直し、今度はジグムント王に向き直り、ブリュンヒルデ達を紹介し始めた。
「では、こちらが「主殿!自己紹介は、自分でさせてくれないか?」
ジークフリートのセリフに、途中で割り込んだブリュンヒルデは、二人の不死の戦士の前に立ち、身振り手振りを加えて己の名を告げた。
「ヴァルムンクの守護の女神として知っていると思うが、我が名はブリュンヒルデ!オーディン神の戦乙女の長女にして、守護の女神だ!主殿の正妻でもある!!」
おお!と驚くレギンと、表面上は落ち着いて受け取るジグムント王。
次に進み出たのは、ゲルヒルデである。
コホンと、咳ばらいをすると、名乗りを上げた。
「次は、あたしっスね!ヴィーグリーズの守護女神、勇気を司る者、ゲルヒルデっス!主さんの伴侶として、よろしくお願いするっス!!」
続いて、ヘルムヴァーテが進み出る。
「ニダヴェリールの守護女神~、慈愛と治癒の要~、ヘルムヴァーテです~。私も~主様に仕えております~。不束者ですが~どうぞ、よしなに~」
最後に、緊張を隠せない様子のリンドブルムが前に出た。
「初めてお目にかかります!ヴァルムンクの王よ!!我が名はリンドブルム!ヴィーグリーズの王、ガルガンチュアの娘にして、ジークフリート殿の婚約者であります!!」
全員の自己紹介を聞き終わったレギンが、ジークフリートにジト目を向けて尋ねた。
『お前の旅の目的は、世界の破滅を救うためじゃなかったのか?』
「そうだよ!」
養父レギン、登場の巻!
彼の天界での役割とは!
以下次回!!




