再会
黒い機神を前に、驚きで呆然とする三人娘の後ろで、ジークフリートとリンドブルムは、頭上に疑問符を浮かべていた。
「三人が驚くのも無理はないよ。あれは、あの娘等の父、オーディン神の魔導巨神と同型機なんだ。次代を担う勇者の為、それに相応しい機体であれと、フリッグ殿が造らせたんだよ」
ヤールンサクサの解説に、ブリュンヒルデは納得しているようであった。
「なるほど・・・得心が行きました。先の大戦で消失した叫ぶ者が、何故健在なのかと疑問に思っていましたが、そういうことだったのですね」
遅れてゲルヒルデとヘルムヴァーテも、ようやく理解が追いついたようだ。
「なんだ・・・父上が、ひょっとしたら無事であったのかと、深読みしてしまったっス」
「確かに~そうですね~」
それに、とヤールンサクサは続けた。
「この魔導巨神には、大切なものが欠けている。お前達なら解るだろう?」
その問いに、ブリュンヒルデ達は首肯した。
「この器には、魂が入っていない。抜け殻だ」
「英霊の魂っスね!」
「これほどの~魔導巨神の~魂となり得る英霊ですか~空きがあったでしょうか~?」
英霊の魂と聞き、ジークフリートはブリュンヒルデに尋ねた。
「ヒルデ、説明してくれないか?」
ブリュンヒルデは、ジークフリートに視線を戻して答えた。
「うむ!我等の魔導神姫は言うに及ばず、この魔導巨神と呼ばれる鎧も、操者のみで動かすには莫大な魔力を必要としてしまう。しかし、その魔力を補うのが、魔導核と呼ばれる心臓部だ。だが、コレの制御にも、相当な集中力を必要とする。当然、戦闘中に魔導核の制御など出来ようはずもない。そこで!」
「英霊の魂という訳か?」
「そういうことだ!」
ふんぞり返るブリュンヒルデの後ろで、ゲルヒルデとヘルムヴァーテは、説明に没頭する姉の姿に、今はこの場にいない姉妹の存在を思い出していた。
「こういう時に、ルーネ姉さんがいたら、喜々として解説しそうっスね」
「一日は~話し続けるでしょうね~」
二人は、ジークルーネがこの場にいないことに感謝していた。その横で、姉妹のやり取りを見ていたリンドブルムに、ヤールンサクサが声をかけた。
「リンド、こちらに来なさい」
リンドブルムは、その声に従い、ヤールンサクサについていった。
黒い機神のすぐ隣に、女性の姿を模した機神の姿があった。
「まさか、これは・・・」
「そう、貴女の母にして、私の娘スルーズ・・・いや、ヒルデガルドの魔導神姫、轟かす者です」
リンドブルムの装着している魔導装甲と同じ、燃えるような赤い色の装甲を持つ機神である。だが、ジークフリートの機神と同じく生きているという感じがしない。
おそらく、この機神にも、英霊の魂とやらが入っていないのだろう。
ジークフリートは、英霊の魂とやらが、この世界でいうところの、人工知能の役割をこなしているのだろうと当たりを付けた。
「さて、勇者殿。そして、リンド。二人には、この機神の要となるに相応しい英霊の魂と契約してもらわねばならぬのですが・・・どうやら、来たようですね」
ヤールンサクサの言葉と共に、フェンサリル門が重々しい音を立てて開いていく。
そこには、ヴァルハラ神殿の門番となっていたヴィーザルと同じく、白銀の魔導装甲を纏った不死の兵士が立っていた。
その姿に、ジークフリートは震えた。それは、歓喜によるものである。
その不死の兵士は、悠然とジークフリート達の前に歩を進めると、兜を取り、その顔を明らかにし、微笑みを携えて声を発した。
『一瞥以来、息災であったか?我が息子よ!』
かつて、ジークフリート自身の手で、ヴァルハラへと送った、ヴァルムンクの王。
剣王ジグムントとの再会であった。
遂に再会した父、剣王ジグムント。
後の展開が読めるでしょうが、進みます!
以下次回!!